STORY

「たぶん、この世界に逃げるところなんてどこにもないんだ」

歴史の狭間で暗殺を請け負ってきた極秘組織「会」。偶然その殺人現場を目撃してしまった少女・小松喜多見は「会」に拉致され殺されそうになる。彼女に残された唯一の希望は、繋がったままの携帯電話。だが電話の相手はごく普通の少年、同級生の高塚永児だった…。果たして彼らの運命は!? 十代の殺し屋たちの凄絶な死闘を描く、鮮烈シリーズ!

KEYWORD

 このシリーズの唯一無二の魅力はどこにあるんだろう。考えた結果、「胸を締めつける痛み」だと思い至りました。確かな筆力が生む登場人物への深い共感、学校生活の思い出が呼ぶ甘さとほろ苦さ。心を掴まれて離してくれない、独特の面白さがある、と思います。

 10代の少年少女たちがそれぞれの理由で戦い殺し合うという非日常的なストーリーながら、力強い臨場感とがっつり感情移入を迫られる確かな筆力がすごいです。生と死、ほのかな温かさと凍てつく冷たさの中で主人公の男の子とヒロインが揺さぶられ、もがきながらも生きていく、ありそうでなかった青春(?)小説です。

心に響く、胸に刺さる resonate.

色鮮やかな絶望 hopless.

 読んでいるこっちが押しつぶされそうなくらい、この作者さんは”絶望”を描くのが上手です。主人公の永児は、お父さんが死んでしまって、お姉さんは自殺未遂で植物状態、お母さんは心の均衡を崩している。ヒロインの喜多見は両親を事故で失って、肩身の狭い思いをしながら親族の間を転々としている。そんなただでさえ辛い状況に置かれた二人が更に命を狙われるだなんて、どれだけ無慈悲なのか…。
 巻を重ねるごとに永児は迫り来る敵を倒していきます。しかしそれは成長ではありません。永児は全く強くなんか無くて、それでも守りたいと思うものの為に、何かを失いながら傷つきながら戦っていく。少しずつ彼の大切な何かが削れていく様が痛々しくて、「休ませてあげて…」と読んでて苦しくなります。後述しますが、彼の悲痛なモノローグが読んでて痛ましくて、惹き付けられるのです。

 大人が読んでも面白い、むしろ読んだ方が面白いと思うのは、過ぎてしまった”あの頃”が丁寧に描かれているから。まだその最中にいる10代には、理解しきれない感覚だと思います。もう忘れかけていた学校の”匂い”を思いだせる。黒板消しが立てる煙、体育倉庫のマットの湿っぽさ、雨上がりのアスファルト、友だちと一緒に食べたクレープ、そういうかつて大切だったものたち。

学校生活への郷愁 nostalgia.

 読み進めていくと、ふとした日常の一場面が切なく感じられて仕方ない。だってまるで、闇の底にいるからかすかな光が一層眩しく感じるようで。しかもその光は、かつてわたしも、みんなも、有り難みすら感じずに享受してきた”日常”なんだから。そんな些細であるはずの”当たり前”が、彼らをそんなにも温めているなんて、正当な権利が損なわれているようで、もう切ない、切なすぎる。面白いよほたるの群れ!

SONGS

「それがあなたの幸せとしても」

苦手な人はすみません、ボカロ曲です。
とにかく歌詞がシンクロしてる!永児のお姉さん、沙希ちゃんが遠いところに行こうとしているのを止める永児の気持ちを歌っているようにしか聞こえません。
個人的にこのシリーズのテーマだと思っている「光と闇(影)」が歌詞に盛り込まれているのもすごい。おあつらえ!ってなるよ。

その数秒が運命でも その数歩が運命でも
その決意を止めるのは我儘か
行かないで 行かないで 行かないで 今は

あなたが 目指してた地点は暗くはないか
それが大きな光の ただの影だとしたら
あなたが 旅立つ場所へ行かせたくはないな
例えばその先で 静かに眠れても
それがあなたの幸せとしても

あなたの 明日は辛くはないか
僕にもがいてる文字に ひとつ線を引かせて
あなたが 抱えてる今日は救えやしないか
それでもその肩に 優しさを乗せたなら
その愛を 感じられるだろうか

ううう、切ないようう。
「僕にもがいてる文字にひとつ線を引かせて」は、「辛」→「幸」だと言われておりまして。
もがいてる文字にひとつ線を引かせて……!ってなる訳です。こみ上げますね。
ぜひ一度、食わず嫌いせずに聞いてみてほしい曲です。

SCENES

 本当にそう思っているのだろうか。
 いつ病院から電話があって、終わりを告げる言葉を聞かされるか分からないのに。
 母さんが家の電話線を時々引っこ抜いているのを知っていた。半日ぐらい引っこ抜いたあとに、慌ててまた差して、取り乱しながら病院に何かなかったか電話している声を何度か二階から聞いた。そのあとに姉さんに謝りながら、ずっと泣き続ける声も。
 頭にこびりついたその声を消したくて、必死に携帯の喜多見の名前を見て、さっき藤棚で目にした優しい笑顔を思い出そうとした。以前ならきっと、それだけで少し痛みが和らいだ。でも、もう無理だった。せっかく教えてもらった携帯の番号とメアドも、もう喜ぶことを自分に許せなかった。
 膝を抱えて、頭をその間に埋めた。どうしていいか分からなかった。どうしたらまともな日常に戻れるのか、そもそももうそんなものがあるのかどうかも分からなかった。胸の中にたまった暗い水の中にどんどん溺れていく感じがして怖かった。もっとちゃんと泣くことが出来たら、これ以上深い水の中に落ちて行かなくてすむような気がしたが、どうすれば普通に泣けるのかが分からなかった。

 何も考えられない。まともなことが何ひとつ考えられなかった。ただ、いろんな悲しみが次から次へと心の中に溢れ出してきた。抑え込んでいたはずの痛みが、抑えきれなくなって、波のように溢れ出した。父さんに死んでほしくなかった。姉さんのあんな姿、見たくなかった。母さんに普通に戻ってほしかった。もうとっくに耐えられなくなっていた。それなのに、ずっと普通のふりをしてきた。涙が次から次へと頬を伝っていく。どこか隅に行って、子供のように小さく丸まって、ただ泣いていたかった。
 でも、喜多見の悲鳴だけが耳から離れなかった。川にように流れては消えていく思考の中で、藤棚で見た喜多見の優しい笑顔だけが辛うじて残っていた。
 高塚くん、今、泣いてたよね。
 うん。
 泣いてた。
「小松さんーー」
 階段を降りていく足音がどんどん遠くなる。喜多見が殺されてしまう。好きな人をみんな、得体の知れない何かに奪われてしまう。行かなきゃ。今、行かなきゃだめなのに。
 足が震えて、頭が真っ白になって、自分がどこにいるのかさえよく分からない。
 すべての感情が邪魔だった。恐怖も良心も罪悪感も全部邪魔だった。喜びも救いもいらない。今は喜多見だけ守れればそれでいい。
 奥歯を噛みしめて起き上がると、いつの間にか目の前に無数のスイッチが並んでいた。壁に、天井に、階段に、窓に、手すりにーー。辺り一面がスイッチに覆われていた。姉が両手を広げて、首を横に振る姿が束の間よぎる。しかし、それを無視して、自分に向かって小さくつぶやいた。
 消えろ。
 とたんに、すべてのスイッチがパチンと切れた。

 第一巻から、特に印象に残っている2つのシーンを挙げてみました。メモには2つどころか1巻だけで6つほど書き溜めてあるのですが、スペースの関係上厳選しました(笑)個人的にこの本の大きな魅力だと思っている”読み手の心を抉り込むモノローグ”全開!という感じで、重たい場面なのですが、その重さがたまりません。とても好きです。

 左の場面は、お姉さんのお見舞いを終えた後、帰り道で喜多見ちゃんと電話する前の場面です。お母さんの不安定な様子、それを見つめる永児、折れそうになりながら、もう折れているのかもしれないけどそれを無視しながら、必死にバランスを取る様子が痛ましい…好き…

 右の場面は、物語が最高潮に盛り上がってくる学校内での「駒」との戦いより。とことん傷ついた永児の痛みが溢れ出すシーン。読んでいるこっちの胸がつぶれそうな描写、たまらんです。映像化したときの情景が目に浮かんでくるキャッチーな見せ方もいいですよね。視界いっぱいに広がるスイッチの山、山、山。そして、永児の家のスイッチがスーっと現われて、「消えろ」という声から一拍、バチン!と音を立てて消える。そして暗転ーーー。みたいな(笑)

 ちなみに、奇しくも両シーンとも”藤棚”が回想されていました。これまで接点の無かった喜多見ちゃんと急接近した大切な場面なので当然かもしれませんが、すごく中学生らしいというか、青臭くていいですね(笑)

OTHER BOOKS

薔薇のマリア 全21巻+外伝5巻 十文字青

とても大好きな作品で隙あればおすすめしているため「またかよ」と思う人もいらっしゃるかも…
だって面白いんだから仕方ない。
ほたるの群れが好きな方には、特におすすめです。

重い!暗い!時々明るくてそれが切ない!というストーリー展開と、 読み手の胸をぺしゃんこにしにかかる、抉り込むようなモノローグが一番の共通点です。
それから、伏線が徐々に回収されていく気持ちよさ、ハラハラドキドキのバトルシーン…うん、やっぱり共通点多い。
何ならもう全文太字にしたいくらいおすすめしたい。
全21巻と読み応えたっぷり、完結しているので今すぐ読み始めて大丈夫。ほら読もうすぐ読もう。
ちなみに1巻〜3巻で一区切りつくので、まずはその3冊をトライしてみましょう。
(0巻と言われているVer0もあって、ここから手を付けるのが一番おすすめです。電子書籍派は是非ここから…!←絶版)

ノラ猫マリイ 十文字青

もう皆さんお察しかもしれませんが、上に挙げた「薔薇のマリア」の続編です。
単品でも楽しめるので、いきなり20巻以上読むのはちょっと…という方はこちらから!

外縁都市グラムENDの文字通りの掃き溜めーー下水道《猥路(メソルド)》。
世界と隔絶された超最低なこの場所から、空に焦がれて一匹の溝鼠が外に出た。
何も持たない溝鼠だったマリアは、外の世界で言葉を、友を、仲間を手にしていく――
「僕が連れていく。きみたちを、外へ。死んじゃだめだ。生きよう」

十文字さんの特色である、負の感情をずっしり描ききるモノローグ、
緻密ながら初読でもすっきり理解できる世界観、
善人も悪人もすべて生き生きとした登場人物、続きが読みたくなる謎、謎、謎…
ああやっぱりどう考えても面白い。おすすめです。(断言)

ALREADY PUBLISHED

既刊4冊、サブタイトルがかっこ良くてですね。漢字一文字で「集(すだく)」「糾(あざわる)」「阿(おもねる)」「瞬(まじろぐ)」。
かっこいい…読めないけどね!

そして、ななななんと5巻はウェブで全編無料公開中!
なんという善意…スタジオエトセトラさん(※制作集団)に就職したくなりますね。
表紙や帯も素材をダウンロードして自作可能。本という媒体を全力で楽しむ姿勢、すごいです。

ほたるの群れ5巻 完成版 → http://studioetcetera.com/main/archives/4629

そしてそして、出版元からは日常パートを描く「五倉山中学校日記」も公開中。番外編というよりかは本編の補完。楽しく切なく読みましょう。

五倉山中学日記 → http://www.gentosha.jp/articles/-/661