It's blowing hard.

風が強く吹いている

STORY

 箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。

※機会があれば、単行本版の表紙をご覧頂きたいのです…絶版みたいなので入手困難だと思いますが、山口晃さんの絵が素晴らしく愛おしくて…

KEYWORD

読み終えたら走り出したくなる

 この本を読むまでは、長距離は辛くて地味で面白さがまったく分からなかったのですが(笑)、読み終わる頃には走り出したくなりましたし、今まで興味が無かった箱根駅伝も沿道に見に行く程大好きになりました。それほど、影響力のある本だと思います。
 それはこの本が、走るってどういうことなのか?強さとはなんなのか?信頼とは?仲間とか?勝ち負けとはなんなのか?…とてもたくさんのことを問いかけ、またその問いに真摯に挑むことで、一つの答えを見せてくれたからだと思います。
 長距離という競技が、走るという当たり前の行為をとことん突き詰めるとどうなるのか、それを問い続けるものなのだということを知りました。与えられた条件も、舞台も、全てが平等で、そこにしかない喜びや悲しみがあることを知りました。
 そんな学びを感じながら奮闘する10人を見て(読んで)いるともう、泣いてしまうしかない訳です。悲しくない”感動”を深く知ることができる超名作です。すごく泣く。
 運動したいけどランニングは苦手だから…と敬遠しているそこのあなた、まずはこの本を読むことをおすすめします(笑)

誰が読んでも面白い、とはこのこと

 素人が箱根駅伝を目指す…というと「荒唐無稽だ」と思う方も居るのではないかと思います。10人のメンバーの中で陸上経験者は二人(その二人はトップクラスの選手ではありますが)で後は初心者、という状態から本選出場を目指すのですから。けれど、どこか懐かしいぼろぼろのアパートでの共同生活、そこから生まれる青臭い衝突や夜な夜なの酒盛り、ハードな練習に文句を垂らす竹青荘(通称:アオタケ)の面々を目で追ううちに、どこにでもいるようでいてそれぞれが強烈な個性を持つ十人を自然と応援するようになるはず。
 そういう魅力的なキャラクターが必死に頑張るからこそ、予選会や、本番のみんなの走りが、苦しみやはじけるような喜びが、なんというかすごくリアルに感じられてたまらなくなります。箱根の朝が来る頃には、もう誰もきっとこの十人の挑戦を、”夢物語だろう”と馬鹿にしたりできないはず。
 誰が読んでも面白い本ってすごく珍しいことだけど、これは、わたしが知る限り、誰が読んでも面白い本です。だって、頂点が見える。ああ、愛してる。

CHARACTER

第1区:柏崎茜(王子)

寛政大学2年。粘着質なほどの漫画オタク。部屋には床が抜けるかと心配するほど漫画がうず高く積まれている。あだ名の由来は王子様のような端正な容姿からだが、それは何の役にも立っていない。自分の性格や経験の上では最も駅伝に遠い存在で、身体能力はメンバー中最下位。

第2区:ムサ・カマラ

寛政大学2年。黒人。理工学部の国費留学生。神童と仲が良い。母国では学校へは車通学だった。陸上経験が無く他の黒人留学生と同じように見られることにナーバスになっている。真面目な性格で身体能力も高い。日本語は流暢に話すが、丁寧すぎて少し不自然。

「黒人の足が速いというのは偏見です」

第3区:城太郎(ジョータ)

寛政大学1年。ジョージの双子の兄。弟ともども高校ではサッカー部に所属。身体能力も成績も弟とほぼ同じだったが、陸上は弟の方が優れていることに途中で気づき、そろそろ別の道を行くべきだと思い始めている。

第4区:城次郎(ジョージ)

寛政大学1年。ジョータの双子の弟。兄ともども高校ではサッカー部に所属。無邪気で天真爛漫。兄同様、ひたすらモテたいくせに女心は全く分からない鈍感な男。自立し始めた兄の心の成長にも、全く気づいていない。駅伝に挑戦する内に、カケルの走りに憧れるように。

第5区:杉山高志(神童)

寛政大学3年。真面目でマイペース、紳士的な性格。ムサと仲が良い。ド田舎の山村の生まれで、毎日山道を歩いたため持久力と坂道には自信がある。「神童」の由来は、故郷で成績もスポーツも一番だったため。ただ東京ではごく普通のレベル。

「それに、箱根駅伝に出られたら、テレビで放送されるでしょう?親も喜ぶと思うんです」

第6区:岩倉雪彦(ユキ)

寛政大学4年。すでに司法試験合格を勝ち取った秀才で、大の音楽好き。理論派。苦労して自分を育ててくれた母のために弁護士を目指したが、母親が再婚してしまい、母の幸せを喜びながらももやもやしている。ニコチャンとよく喧嘩をしているが、お互いのことをよく理解している。

第7区:平田彰宏(ニコチャン)

寛政大学3年だが浪人2年、留年1年で、なんだかんだ25歳。高校時代は陸上部だったが、自分の肉体が陸上に不向きだと悟り、大学に入ってからは陸上を続けていなかった。かなりのヘビースモーカーだったが、箱根を目指すにあたって禁煙。手慰みに作っている針金人形が、女子たちの密かなブームに。あだ名の由来はもちろんニコチンから。

第8区:坂口洋平(キング)

寛政大学4年。クイズ番組好きで雑学王だが、気が小さくアガリ症なので番組に出場しようとは思っていない。就職活動で苦闘中。アオタケの中でいまいち馴染みきれていないことを気にしている。

第9区:蔵原走(カケル)

寛政大学1年。高校の陸上部では将来を嘱望されたアスリートだったが、暴力事件を起こして退部。陸上界とは距離を置き、ひたすら自身でトレーニングを積む日々だったが、ハイジと出会ったことによって箱根駅伝を目指すことになる。言葉より拳が先に出るタイプ。口下手で自分の思いをなかなか言葉に表せない。

「優勝できなきゃ、走れないのか?じゃあおまえら、いずれ死ぬからって生きるのやめんのかよ」

第10区:清瀬灰二(ハイジ)

寛政大学4年。高校時代陸上に明け暮れるも、故障のためリタイア。しかし陸上への思いを捨てがたく、虎視眈々と竹青荘の住人が箱根駅伝に必要な人数に達するのを狙っていた。走を迎え遂に10名揃うと同時、念願の箱根駅伝を目指しはじめる。駅伝チームのリーダーにして実質的な監督であり、強い心で一同を引っ張ってゆく。

「頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ」

MEDIA

林遣都主演で映画化!

 もちろん公開当時に映画館で観てきました!2009年の映画です。キャラクターのイメージがかなり原作と近くて、ところどころにアレンジはありましたが、全体的に原作ファンも満足の行く仕上がりだったのではないでしょうか。映画として面白いか・・・・・・は正直ちょっと微妙かもしれませんけど(笑)原作読んでなかったら絶対観てないもんなあ。
 林遣都さん好きなので、走はとても合っていると感じました。後ろに書きますが、バッテリーという映画で主人公の巧役でデビュー(いきなり主演!)したときの「うわあ、巧ですやん…!」という衝撃を思いだしました。どちらも大好きな作品の、どちらも主人公を演じているので、林遣都さんは好きな俳優さんです。お肌が綺麗。

OTHER BOOKS

バッテリー

 スポーツものといえばこれ!な言わずもがなの名作ですね。傲慢なピッチャーが他者との融和を学んでいく過程を描いた作品(とわたしは捉えている)です。他にもスポーツものでいえば、「一瞬の風になれ」や「DIVE!」も読んでいるのですが、その二つはあんまり記憶に残っていなくて…。あと「武士道シックスティーン」を始めとする武士道シリーズも面白かった記憶がありますが、あまり感情移入をする感じではなかったので。
 特にバッテリーは、思春期ならではの親や友人への反発や、自分の中の可能性を信じる気持ち、そんな青臭さを当時のわたしも抱えていて、そこにすごく共感したことを覚えています。「母親がこれを読めば、わたしの気持ちが分かるのに!」そんなことすら考えていました(恥ずかしい)。
 主人公の巧くんと、「風が強く〜」の走は、生まれ持った才能と努力を怠らないストイックさ、それが故に他人を下に見てしまうところ、自分の気持ちを言葉にするのが苦手なところ…共通点が沢山あるので、比較しながら読むこともできるのが面白いところ。「風が強く〜」を気に入った方には、ぜひおすすめします。