α大陸サンランド無統治王国、首都エルデン。”君臨すれども統治せず”がルールのこの国では、盗むも自由、犯すも自由、殺すも自由。侵入者《クラッカー》として街の地下に張り巡らされたダンジョンに潜り込み、異界生物《フリークス》を倒して金品を強奪することで生計をたてる主人公マリアローズ(美しさだけが取り柄、但し性別は不明)は、仲間と共に一攫千金を夢見ながら日々を過ごす。超絶美形な気障男にストーキングされたり、ひ弱な自分に落ち込んだり、それでも前を向いたり。
それぞれが過去や秘密を抱えた数多くの登場人物たちが繰り広げる物語は骨太の人間ドラマのようであり、壮大なファンタジーでもあり、昔途方も無くわくわくしながらプレイしたRPGのようでもあり。謎や恋や世界の秘密が絡み合う重厚なストーリーと魅力的な登場人物に、一度読めば必ずハマってしまう、注目のライトノベル。
この作品が好きだな〜と思うのは、まず「設定の細かさ」「世界観」が挙げられます。あらすじを読んだだけでも独自の言葉(クラッカーとか、クランとか)がわんさか出てきて戸惑った方もいるかもしれませんが、しばらく読めば慣れるので、そこは我慢してください(笑)舞台となる世界、それぞれの国固有の文化、歴史、貨幣制度、度量衡、すべてがきちんと決められていて、少しずつ明かされていくのですが、なんというか「もっとある感」がすごい。明かされている設定は氷山の一角で、その下には膨大な、埋もれてしまっているものだろうほどの設定がある!ということが読んでいて伝わってくるのです。 そんなに凝縮された世界観が、さらに「ほんとっぽい」というところがポイントです。説得力があるというか。よく出来たSFのように、「もしもこんな世界だったら、なるほどこの通りになっていくだろう」と納得しながら読める、というか。昔ながらのRPGファンなら薔薇マリ(特に初期)の世界観にハマると言われていますが、それは綺麗ごとやご都合主義を全部取り払った「ほんとっぽい」RGPが体験できるから、なんだと思います。
物語が進むにつれて、スケールがどんどんどんどん大きくなっていくのですが、それがまたすごい。伏線の回収のされっぷりが気持ちいい。それどころか「こんなところから伏線張ってたの…?」となるくらい、序盤からトバしてる。打ち切られずに書けるだけ書ききった、全力が込められている、そんな良質な作品を一気読みできる贅沢。何も知らない状態から一気読みできる人が羨ましい。そんな本です。
世界観については既に暑苦しいくらい語り尽くした後ですが、もう一つだけ魅力を語るとしたら、それは文章だと思います。十文字さんの本は多くの場合、紙面が文字で埋め尽くされる程濃密なのですが、この「薔薇のマリア」もその傾向が強いです。そして、章ごとに一人称というか語られる視点が変わります。物語の主人公はマリアローズという美貌の侵入者(クラッカー)ですが、マリアだけではなく、その仲間たち、敵対勢力、街ですれ違うだけのいわゆるモブ…ありとあらゆる人物が語って、語って、語りまくります。その人物の思うマリアたちの姿、感情、状況、過去…「そんな風に思ってたんだ!」という発見があるのも面白い。ここでも情報過多なところがありますが、それが良い!
人物への感情移入が強く引き起こされるだけではなくて、エルデンの多様さ、そこで生きて死ぬということ、誰もが他にない自分の人生を生きていること、が描かれているように感じるのです。すごい。
読んでみないとこの魅力は伝わらないと思うので…気になった方は、どうか読んでみてください。ライトノベルだからと食わず嫌いせずに。わたしもライトノベルの類は高校くらいで卒業してますから。それでも、今も、これだけは本当に面白いと思いますから。
KEYWORD
物語の主要な舞台であるサンランド無統治王国は、その名の通り、王はいるが統治はされていない。王立銀行等の最低限のサービスはあるが、それ以外は民間にお任せな超自由競争社会。当然のごとく治安は最悪で、盗む犯す殺すは日常茶飯事。けれども街の中でも「ここは安全」「ここは危険」「この公園の中での刃傷沙汰は御法度」みたいな”暗黙の了解”が出来上がっていたり、自警団が表れたりして。エルデンという街の面白さだけでも、読む価値があると思います。
ダンジョンに潜ってモンスターを倒してお金をゲット!という昔ながらのRPGを、徹底的に描いた作品。きっと同じようなライトノベルは沢山あるんだろうけど、わたしはこれしか知らないからとても新鮮に感じました(笑)お金をゲット!って簡単に言ってしまうけど、それはモンスターたちから金目のものを強奪して換金することで、死体を漁らなくちゃいけないから大変だよなあ、とか、薔薇マリを読むまで思い至りもしませんでした。
侵入者同士が組むパーティーのこと。自分の身に何が降り掛かるか分からないエルデンという街でも、街だからこそ、信頼できる仲間だけは大切にしたいという気持ちが強くなるんだと思います。主人公が所属するパーティーだけでなく、色々な形のクランが存在していて、それぞれが友好関係や対立関係にあったりするところも面白いポイント。
魔術の一種として”医術式”が存在していて、その特殊な技が使える人は”医術士”と呼ばれる。ドラクエで言うと僧侶的な職能ですね。医術士の腕次第で瀕死の状態でも回復出来たりするところも一緒。病気は治せません。
薔薇マリの世界には、いわゆる”ザオリク”も存在しています。医術式とは全く異なる技術なので、医術士が使えるものではなく、教会に死者を連れて行き神職者が儀式によって生き返らせるもの。儀式は100%成功するものではないし、損傷が激しい死体では蘇生式が行えない等の制約が多い。エルデンでは生臭坊主による搾取が行われており、法外な料金を払わないと生き返らせてくれなかったり、やっぱり随所でリアリティというか、「確かに、そりゃそうなるよな」感を覚えます。
HOW TO READ
完結まで本編22巻+外伝5巻、そして続編(?)1巻と、かなりボリュームのある薔薇のマリアシリーズ。
ハマってしまえばむしろあっという間に終わってしまう量なのですが、まずハマるかどうかが大きな分かれ道。
「こう読むのが一番面白い!」という、脱落者を限りなく少なくする為の、おすすめの読み方をご紹介します!
シリーズ的には1巻から始まりますが、ぜひここは前日潭であるVer0を先に読んでいただきたいと思います。完全に私見ですが、そっちの方がハマる確立が高い。わたしもここから始めました。
1巻は主人公のマリアローズとその仲間たちがダンジョンに潜って一攫千金を狙うというザ・RPG!なお話なのですが、Ver0はマリアローズがZOOという所属パーティーに加入するまでの様子が描かれています。マリアローズの生い立ちや、重要なキャラクターであるアジアンとの出会いが描かれていて、世界観への理解や、登場人物への思い入れががっつり増します!
そして何よりアジアンは1巻には冒頭しか登場しないので「超絶美男子が主人公のことをストーキングするらしい」という部分を楽しみに読む人は拍子抜けしてしまうのです。何言ってんだって感じがしますが、アジアンの変態ぶりとマリアローズの無慈悲なまでの拒絶っぷりは、トムとジェリーのような様式美的美しさすらあって、とても面白いので、やはりVer0から読んでいただくことをおすすめします。
絵柄が若い!
導入編のような1巻からギアマックス、トップスピードで物語が展開するので一気読み必須です。2冊で話が綺麗にまとまり、かつVer0から3巻までの4冊で、薔薇のマリアの面白さがぎゅぎゅっと詰まっているので、正直3巻まで読んで面白くないと思ったら続きは読まなくても大丈夫です。そうなったらさすがに推せない。勿論お話的にはこの後ますます盛り上がっていく訳なのですが、テンションというか、世界観というか、肌に合うか合わないか、が判断できるのがここだと思います。逆に言うと、この4冊はあまねく人に読んでいただきたい(迫真)。
1巻〜3巻まで背景の模様?が一緒だ!(初めて気付いた)
マリアとみんなと世界のこれからを描く4巻。SmC編が一段落した日常パートっぽい1冊なので楽しくさらっと読めますが、実は物語の根幹に深くかかわるあれやこれが起こっていたりして、読み返すと発見が多くて、とても楽しい1冊です。Ver2は外伝ということで、マリアローズ擁するクランZOOメンバーの過去が明らかに。トマトクンの謎だけは深まるばかりですが、ピンパーネルが異国からエルデンに流れてきた理由、カタリの人間性が伝わる小さな恋のお話、そして子爵を罠に嵌め脱走を図ったマリアのその後も!ヴィンセントとマリアの関係性がすごく好きです。
さりげなく4巻から衣装チェンジ!
舞台はエルデンを離れて!後に解説しますが8巻と並んで、すごい攻めた展開だなと最初思いました。だって、5巻はZOOの面々がほとんど登場しないんです。アジアンに至っては3冊で全く出てこない!笑 読者が離れてしまうかもしれないのに、大胆な展開に持ち込む姿勢、好きです。
ということで、5巻はマリアたちが訪れる街の様子がメインで描かれるので、その街の人々、つまり新しい登場人物がわんさか出てきて最初はとまどいます。が、気が付くと、その登場したばかりの人たちにもがっつり感情移入をしていて二度戸惑います。何なら初めて読んだとき号泣しました。
6巻からは、そんな感情移入した人たちとマリアたちが顔を会わせて色々しゃべるので、「違うコミュニティの知り合い同士が会話してる…!」的な、初期の伊坂幸太郎みたいな楽しみ方も出来ます。やっぱりとっても面白いな、ジェードリ編。(小並感)
ところで表紙絵は全巻通じて7巻が一番好きです。
舞台は再びエルデンへ。そして、ついにあの人の過去と秘密が…!愛のあり方に、思わずじたばたしてしまうこと請け合い。名シーンも多く、見どころの多い3冊です。長いシリーズですが、10巻で一つの区切れが付くのかな、と個人的には思います。
5巻もそうでしたが、8巻もともすればファンを置き去りにするような超展開から始まるので、最初はあっけにとられるというか、訳分からんという感じになります。安心して下さい、みんなびっくりします。ですが、シリーズ全編から見た時の8巻の位置づけというのはとても大切で、重要で、深く読み込もうとすればするほど、「8巻すっごい…」となります。8巻すごい(二回言った!)。9巻10巻もそれぞれの戦いを通したモノローグが本当に面白くて…語る語る、お前そんなこと考えてたの!ってなるよ。面白い。
8巻のアジアンのポーズがちょっと面白い。10巻の表紙もすごく好き。表紙から滲む「いつもと違う」感。
時間は少し進み、ZOOに新たな仲間が!以前登場した“あの人”もパワーアップして復活。SmC編の真の完結、といったようなルーシー編です。チーム内で最弱で、自分の立ち位置をいつも迷いながら傷つきながら探していたマリアが、すっかり大人に…!と、成長を味わえるのが楽しいです。
シリアスな場面も多数ですが、10巻までで一区切りついて、またエルデンでの日常も帰ってきたようで、どこかうきうきそわそわする、そんな雰囲気も楽しいです。
背景はグラデーションになりました。
最終章に向けて、助走というか、ぐっと力を溜めるようなイメージの1冊。色んな人の思い、欠片たちが交錯する、群像劇のような見せ方が面白いです。これぞ十文字さんの真骨頂!
ころころ場面転換されるので分かりにくいかもしれませんが、何と言うか、「街ですれ違う一人一人にも、その人だけの人生があるんだ」ということを文章から感じさせるというか…(何言ってんだ感がすごい)
表紙やたらと可愛らしいですね!
物語はついに最終章へ…。想像を絶するような困難がマリアたちを襲います。シリーズ前半から一貫して描かれる“逆境に抗う力”…マリアたちの生きる力がきらめきます。
遡れば1巻から既に伏線はあちこちに仕掛けられていて、それらを含め、謎だらけだった世界の秘密が解き明かされていく様に興奮するし、次々と、何と言うか、キャラクターたちが死んでしまうのも、「この先どうなっちゃうの…!」と興味をそそるし、緊迫感に読んでいて息が詰まりそうだったし、”集大成”という言葉がふさわしい、物語として、シリーズとして、完成度が高いなあ…としみじみしてしまいます。すごい。ここまで読み切ったら、きっともう誰でも薔薇マリにZOKKONに違いありませんね。握手しましょう。
背景が付き始めましたね!絵柄の変遷よ…
Ver1と5はこの二つが繋がっているので、1→5の順番で読みましょう。物語序盤に登場してマリアをかき乱したコロナが主役のスピンオフ的なお話。コロナの話がもっと読みたい!と望むファンの方も多い程、こちらも人気です。Ver4はZOOメンバーでの日常編。1巻のようにアンダーグラウンドに潜ってお宝探し!という原点回帰な短編が詰まった一冊で、シリーズが徐々に重たい展開になっていくので(笑)息抜きにちょうどいいのではと思います。
薔薇マリ完結でロス状態に陥っていた読者に突如訪れた福音「画集を完全生産販売で出します」。勿論ゲットしてわくわくドキドキ読んだ画集の中には書き下ろし短編「ノラ猫マリィ」。パラレルストーリーかと思ったら、何とその短編が書籍化!あの時の薔薇マリファンの狂喜乱舞ぶりは本当にすごかったです(遠い目)
ノラ猫マリィ(略してノラマリ)は、薔薇マリを読んでいなくても楽しめる「新しい」小説になっているので、なんか気になるけど長過ぎてさすがに…と思った方はこちらを読んでもいいかもしれません。正直、わたしは薔薇マリの方がずっと好きだけどね!
OTHER BOOK
「ほたるの群れ」と同じ作者(面白いと思ったら同じ作者を攻め続けるので、自然とおすすめ作品に偏りが生まれます(笑))なのですが、中世ヨーロッパのような世界観で妖精が出てくるような、ザ・王道ファンタジーといった様相。特徴的なのは、主人公の女の子・ペチカの性格がとんでもなく悪い、というところ(笑)
辛い環境下で育ったために人の優しさや好意を信じることができず、世界のすべてを憎んでいる女の子が、世界の審判を行う為に地上にやってきた妖精の”観察対象”となる…というお話です。薔薇マリと同じように、独自の通貨や度量衡、土地土地の文化の違いがこまかーく練り上げられていて、世界観の”奥行き”がとても深いところが似ていると思います。読み手がどこまで想像の翼を広げても、どっしりと受け止めてくれそうな安心感、というか…その辺のファンタジーの皮を被ったあっさい小説とは違うんですよ!という本気度、というか…。
書いてて気付きましたが、主人公の境遇も少し似てるかも。マリアローズはペチカほど憎悪が強くないけど。マリアローズの方が処世術に長けていて、したたか。ペチカの方が拗ねていて、手負いの獣みたいな切迫感がある感じ。二人とも、少しずつ周りの優しさに温められていって、徐々に生来の美徳が表れてくる、というところも似ています。読んでいてイラっとすることもあるけど、結局愛おしい、そんな二人の冒険、どちらもおすすめです。
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