目覚めたら少女はランプの魔神になっていた…ファンタジーの巨匠が送る「これは王国のかぎ」

10代の頃に一度読んで
「なんか主人公の子が報われなくてかわいそう…」
と思ったきり再読していなかった「これは王国のかぎ」、10年以上ぶり(ヒィ🙄)に再読です。

ところで最近再読熱が冷めやりません。
昔読んだ本に対する感想が変わったり変わらなかったりするのが面白くて、それとやっぱり一度読んでいるから「せっかく読んだのに面白くなかった…」というがっかりを回避することができるのが大きい笑
でも新しい出会いもほしい…読みたい本は増えるばかりです😂

失恋して二十二日めの梅雨のさなか、あたしは最低最悪の誕生日をむかえた。(書き出しより)

シンプルで魅力的なストーリー

なんだろうなあこの面白さ。
女の子の妄想が凝縮された一冊、というか。
好きなものやときめくものをぜーんぶ詰め込んで、それが高い完成度の物語として目の前にポンっと現れてくれた、というか…(逆にわかりにくい感想)

ストーリーはとてもシンプルでわかりやすい。
失恋した直後に15歳の誕生日を迎えた上田ひろみは、傷心のあまり制服のままうたた寝をしてしまう。
そして、ふと気がつくとそこはアラビアンナイトの世界、壺から呼び出された魔神族(ジン)になってしまった!というもの。

これは夢を見ているに違いないと考えたひろみちゃんはかなりあっさりと魔神族であることを受け入れ、失恋の痛みを忘れるために「冒険だ、冒険」と自分を見出した青年と旅をすることになる。
そのさっぱりしてて大胆な感じ、荻原作品のヒロインらしくて気持ちいいです笑

荒れ狂う大海原、灼熱の砂漠、王位争い、恋と冒険と魔法の世界。
「ああ、ファンタジーが大好きだったんだよなあ、あの頃からずっと」と、本の向こうに中学生くらいの自分がひょっこり見えた気がしました。

これを読んだらあれも読もう「樹上のゆりかご」

高校二年生になった上田ひろみちゃんの物語。
確かハールーンたちは全く出てこず、また少し寂しい気持ちがした10数年前の記憶が…🤔
ということで、わたしも次はこちらを読んでみようと思っています。

さて、以下はネタバレありまくりの自分用メモになります。
未読の方はお気をつけください〜〜!

憎らしいのに憎めないハールーン

登場人物は割と少なめなお話ですが、出色なのはやっぱりハールーンではないでしょうか。
ひろみちゃんを見出し「ジャニ」と名付け、実は王国の王子様だったハールーン。

「おれについてこなきゃだめだ。あんたはおれの幸運だろう」(P31)

ものすごい殺し文句!
だれにも従わず、自分だけを恃みにまっすぐに突き進むハールーンは物語のまさにヒーロー的存在。
ただそれは、裏を返せばとても自分勝手で必死のお願いも聞いてはくれないということ。
彼の周りにいるは「恋しいのに憎らしい」という思いを抱くのでしょう。

「あたしの主というのは、どう考えてもハールーンだもの。それ以外にはいないもの」
「だれもが自分の主だよ、ジャニ。おれはおれだけの主だ。だから自分の好きなことをする。ただそれだけのことだよ」
ハールーンはいい、おどけるような瞳であたしを見て、甲板のロープの束をかつぎあげた。
「さあ、もう持ち場につかないと。ジャニ、もう一度よく考えてごらん。あんたがこれから行くところは、海の彼方ではないはずだよ」
(中略)
ハールーンには、もう、魔神族の力はいらない。
わかっていたのに、だめ押しをしたあたしがばかだったのだ。これが彼だというのに。だれよりも独立していて、だれよりも強く、だれの思いどおりにもならない。(P321〜322)

うーん、やっぱり初読の印象通り、「ジャニが報われなくてかわいそう」と思ってしまう笑

煙に巻かれたような終わり方が気になる

すごいネタバレで恐縮ですが、物語の終わり方は、大円団を迎えたラシードたちを置いて“王国のかぎ”を解いたジャニが、王様の閨で物語を語るシェエラザードに出会い、これまでの展開が全てシェエラザードの語りであること、そして自分はシェエラザードの使いとしてハールーンやラシードたちの世界に行っていたことを知ります。
シェエラザードは『あたくしはあなた』と言い、彼女に聖水をかけられてジャニはひろみちゃんに戻っていくのです。
そして、ひろみちゃんは何事もなかったかのように日常に戻っていく…という終わり方。

えっ、これで終わり!?

と思ったのはわたしだけでしょうか。
ハールーンやラシードたちが、白昼夢であったかのように片付けられてしまったような気がして、寂しさを覚えてしまいました。

ハールーンたちの世界はシェエラザードの世界の想像であり、そしてシェエラザードの世界はひろみちゃんの世界の想像の産物だった……。
精神世界の中で冒険をした少女は、失恋の痛みを乗り越え、また日常に戻っていく。

けれど、その世界のどこかには、誰のものにもならず、「外」(世界の枠外?)に飛び出して行ったハールーンの存在がちらつきます。
もしかしたら、シェエラザードの世界をさらに飛び越え、ひろみちゃんの日常の中にハールーンがいるのかも。
そう思うと、くすぐったいような気持ちがしますね。そんな夢を見たっていいじゃない。
いつかのどこかで、ひろみちゃんとハールーンがまた冒険をしたらいいなあ、なんて。

表紙の秘密

この表紙、とっても素敵ですよね。荻原作品の相棒といっても過言ではない佐竹美保さんの装画です。
文庫版のあとがきでは、荻原師匠が自らこの口絵について解説してくださっています。

月と太陽、海と砂漠、船と都市、王子と王女ーー物語をぎゅっと閉じこめたすばらしさを、どうぞ味わってください。この時空には、ジャニもしっかり描かれているのですが(木馬とはべつに、ですよ)、見つけられるでしょうか。(P345〜346)

ほう…?と思い、よくよく表紙を見てみたら、いたーーーーーーーーーー!!

なんだか寂しげに背を向けて座っている制服の少女。
視線の先には、ハールーンのいる海が広がっているのかな。

それにしても、競りの現場からラシードを救い出したシーンを読んで「おお、これが表紙絵の場面…!」と胸が熱くなったものですが、まさか王子がミリアム(少女)で、姫がラシード(少年)でだとは表紙からは想像がつかないでしょう。

性別転換という大技をしれっとキめてくる荻原師匠

すごいっすわ…としみじみしました。笑

師匠のインスピレーション

もうひとつ、あとがきから。

四つの章の章題は、交響組曲「シェエラザード」の四つの楽章にちなんでつけました。この曲との付き合いも長く、物語のイメージのほとんどはここからもらったと言えます。それなのに、「これは王国のかぎ」を書くにあたってCDを買ったら、ぜんぜん気に入らないのでびっくりしました。思わずいくつも買い漁って、ようやく気がつきました。わたしにとって交響組曲「シェエラザード」は、高校時代にもっていたのと同じユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア・オーケストラの演奏でなければならず、鑑賞はできても物語は絶対に喚起されないのです。おもしろいものだと思いました。(P344)

恥ずかしながら、シェエラザードを聞いたことがなかったので、読了後に早速聞いてみました。
聞いたことがあるメロディだな…とすぐに思ったのは、おそらくフィギュアスケートの曲でしばしば用いられているからだと思います。
物悲しい笛の音色、大海原が目蓋に浮かぶ激しいリズム、中東への憧れが詰まった主題、とっても素敵で聴きやすい音楽だなあ!と思いました。おすすめです。作業用BGMにもなる。

そして、師匠がインスピレーションの元にしたというユージン・オーマンディさんが指揮してるVERをyoutubeで見つけたのでリンク貼っておきますね。

千夜一夜物語、残念ながらかじったことがないのですが、いつか嗜んでみたいものです😇

余談:ところでアラビアンといえば

アラビアンの物語といえば「アラジン」と「シンドバッド」ですよね。
そしてシンドバッドといえば、ディズニーシーの名(迷?)アトラクション、シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジですよね!(唐突)

このアトラクション、初めて乗った時からとても大好きで…
イッツアスモールワールドのシンドバッド版という位置付けで、船に乗って物語を鑑賞していくスタイルのアトラクションなのですが、

メッセージ性がめっちゃ強い、そして流れてる曲が半端ない名曲

なのです。あと、いつ行っても空いてる、すぐ乗れる。
ディズニー好きはご存知のアラン・メンケン作曲の「コンパス・オブ・ユアハート」が、本当に名曲でして…

何も言わずに聞いてみていただきたい。

アトラクションを出たら「人生は冒険だ、地図はないけれど…!」「心のコンパスに従おう…!」
どんなに落ち込んでいる時でも前向きになれること請け合いです。

ああ、ディズニー行きたくなってきた…