ごった煮な和製ファンタジーの新星「ぬばたまおろち、しらたまおろち」

ハリポタ好き
和製ファンタジー好き
異類婚姻譚好き

これらのうち二つくらい当てはまるなら、きっと面白い!
そんな作品でした。

後述しますが、いろんな作品に影響を受けながら、ご自分なりの世界観をめいいっぱい楽しんで描いた、という印象を受けました。

※創元ファンタジイ新人賞について
https://www.tsogen.co.jp/award/fantasy/
審査員のお一人は乾石智子さんでした。大人向けファンタジー「夜の写本師」(えっちくないよ!)の著者です。硬質な文章と色彩の豊かさ、何より時を超えた愛憎劇が面白かったんだよなあ🤔

求婚する蛇、というパワーワード

ほとんど予備知識なしで読み始めた(インスタで見かけて好きそうな雰囲気だったので借りてきた)ので、序盤で真珠みたいな色の3メートル超の大蛇が主人公である綾乃ちゃんに求婚し始めてびっくりした。笑

「愛している」アロウのくちびるが動いた。声は少しかすれて聞こえた。「愛している、綾乃、わたしと結婚してくれ。わたしの妻になって、わたしの子供を生んでくれ。ずっと一緒に暮らそう。人間と同じにはできないけれど、結婚式も挙げよう。満月の晩、わたしが虹を呼び出すから、その上を飛ぶんだ」
「と、ぶ?」わたしはゆっくり繰り返す。「蛇って、飛べるの?」

P73より

おいおい、押しの強さ半端ないなアロウ(呆然)

個人的な好みで大変恐縮ですが、一方がもう片一方に執着とも言えるくらいZOKKONになる展開が好物なのでこれは大ヒットの予感…!とわくわくしながら読み進めました。

※とても余談ですが、わたしはこのての執着モノを「偏り小説」と(勝手に)名付けてとても愛しているのですが、話すと長いので別の機会にじっくり考えたいと思います😇

特に第1章では、綾乃ちゃんの住む岡山の田舎がたっぷり描かれていて、それも好きだったな。妖怪の目撃談が今も息づく平和に閉じた世界。そこにやってきた民俗学者の先生は若くてお酒の強い美人さんで、村の男衆はメロメロ。

綾乃ちゃんは数年に一度のお祭りで舞を奉納する大役を務めます。綾乃ちゃんが舞う場面では、「君の名は」での三葉ちゃんを脳裏に浮かべながら読みました。

田舎の夏、日本の夏、中学生の夏、アロウと池を泳ぐシーンやお祭りの喧騒が眩しくて、ニヤニヤしながら読み進めました。

この後に超展開が待ち受けているとも知らずに……

突然のハリポタ展開にびっくりわくわく

お祭りの夜に主人公綾乃ちゃんを狙う怪しい影、「アロウが駆けつけて綾乃ちゃんを助けるものの、村人に喋る大蛇の存在がバレて大変なことになるに違いない…!」というわたしの予想は斜め上の方向に外れて行くのでした。
村にやってきた民俗学者のお姉さまが実は魔女で、アロウと協力して妖怪を撃退する、という超展開に。

まあ超展開と言いつつ、裏表紙のあらすじにはしっかり書いてあるのですが、、
(予備知識なしで読む派なので、裏表紙も見ないようにしてた)

そしてこの後、綾乃ちゃんはアロウと行動を別にし、魔女学校に入学することになるのです・・・。(えええ)

魔女学校には、色々な種類の妖怪がたくさん。綾乃ちゃんは慣れないながらも少しずつ学校生活に馴染んでいきます。

ダンスと称された箒で空を飛ぶ授業、薬草学、魔女の歴史、ルームメイトと楽しむお茶の時間、憎まれ口を叩きながらも時には優しい男の子・・・
まさにホグワーツが日本にあったなら、そこの生徒が妖怪だったなら、というオマージュ小説に近い読み応えです。

ごった煮感すごいぞ。

アロウと綾乃ちゃんの交流が面白かった派なので、「ええい、学校生活はいいからアロウを出せえ」と思いながら読んでいましたが、最後にはアロウの秘密がしっかり明かされ大満足。

中高生の頃に読んだならもっと楽しめたかもなあ、な、ドタバタごった煮和風ファンタジーでした。

これを読んだらあれも読もう「RDG」

これはもうレッドデータガールに決まりでしょう。
巻末に、この賞の選考者たちのコメントが載っているのですが、三人中二人が「RDGを思わせる」みたいなコメントしてたもんな。

酒井駒子さんの挿絵がまた素敵なんですよね…

世界遺産に認定された熊野古道、玉倉山にある玉倉神社。そこに住む泉水子は中学三年まで、麓の中学と家の往復だけの生活を送ってきた。しかし、高校進学は、幼なじみの深行とともに東京の鳳城学園へ入学するよう周囲に決められてしまう。互いに反発する二人だったが、修学旅行先の東京で、姫神と呼ばれる謎の存在が現れ、さらに恐ろしい事件が襲いかかる。一族には大きな秘密が―。現代ファンタジーの最高傑作!

全6巻、文庫化されてるので手に取りやすいですよ😊
不思議な力をもつ少年少女たちが高校に集結するところが共通点かな。自分に自信をもつことができなかった主人公泉水子ちゃんが成長していく様が眩しくて…山間の湧き水みたいな読み心地の荻原さんの文体も必見です。

以降ネタバレあり!ちょっと引っかかったところ

デビュー作だからか、ちょっと気になるなあというところもあった本作。いや、面白かったんですけどね、ツッコミどころも結構あったっていうか。

というわけで、引っかかったところを箇条書きにしてみました。

  • 村が閉鎖的で耐え難かったのは理解するけど、せっかく育ててくれた恩を蒸発で返すのは如何かなと…(いやまあ最後はね、叔父さん叔母さんの許可を得て学校に戻るわけだから、大団円なんだけども…)
  • 学園パート、楽しいは楽しいんだけど「ほーらこういうの楽しいでしょう!?」という押しの強さを感じてしまった。
  • 丁寧に説明されてたけど、やっぱりアロウと雪之丞くんが同じ時空にいるのが解せない。
  • 雪之丞くんのお父さんが実は超すごい神さまでした、というのも力技すぎでは…(でも個人的には、三輪神社にも行ったことあったので親近感湧きました)

アロウと雪之丞くんが同一人物で、時を超えて綾乃ちゃんとまた出会って…という展開にはとてもグッときたし、よくできてるなあとしみじみしました。

和風ファンタジー好きにはやっぱりおすすめ。知名度低いと思うので、もうちょっと広まったらいいなと思う作品でした。まる。

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