ファンタジー好きは読んで損なし「かえるの騎士とみにくい背高女王」の魅力を考える

推し作家さんである十文字青が、20年の集大成的な発言をされて一気に個人的注目度が上がった本作、やっとこさ読みました。

(あっ、”20年の集大成”とは仰っていなかった笑)

めっちゃ面白かったです本当に有難うございました。

好きな作家さん=好きな作風・文体であることはそうなんですが、十文字さんは長いキャリアを歩まれているのに(だからこそ?)いつも新しいことに挑戦される作家さんなので、作品ごとに違った風合いになることが多いです。

なので、どの作品も掛け値なしに面白い!おすすめ!とは正直申し上げないんですが、本作はですね、良かったです。
タイトルにも書きましたが、ファンタジー好きな方はまず読んで損はないと思います。
わたしは本作を読んでいて、あの向山貴彦さんの「童話物語」を思い出していました。ああ、また読みたいなぁ童話物語。

本作、「かえるの騎士とみにくい背高女王」は520ページと分厚い作品ですが、少しずつ読み進めても面白いし、もちろん一気に読んでも面白いです。章がⅠから始まりⅩⅩⅩⅦで終わるので、わたしは寝る前に1〜2章ずつ読んでいました。

興味がある方にはなるべくネタバレなく読んでいただきたい派なので前半では多くは語れないのですが、主人公がとにかく良いんです。
タイトルの通り、かえるなんです。かえるは比喩ではなくて、ほんまもんのかえるです。このかえるの主人公が……良いんです。(同じことしか言ってない)

かえるがお好きな方はもちろん、苦手な方でも大丈夫。
むしろ苦手な方にこそ読んでいただきたい。理由は読めば分かります。

秋の夜長に、ひととき違う世界の、いろんな人生に触れられるファンタジーと共に過ごしてみては如何でしょう。贔屓目抜きに面白いですよ。

以下、ネタバレ感想が続きます!未読の方はご注意ください〜!

ネタバレ覚書

読み終わった新鮮な気持ちのまま、メモに書き殴った感想が残っているので添えておきます。パッションがあるね。

  • かえるのキャラクターが魅力的。初めは「かえるが喋った!」と驚き、忌避していた人たちの誰もがかえるを愛することになるところ。そしてそれらが至極当然であることが、読み手にもよくよく伝わるところ。
    • 恐らくお話の中では何十年も時間が経っているのに、かえるさんの口調がずっと変わらないところも好ましかった。かえるさんは変わらないね、と声をかける人たちも、変わらないことを嬉しくありがたく思っていたに違いない
  • かえるが、カエルでもなく蛙でもなく”かえる”であり、”かえるさん”と呼ばれているところ。寓話っぽくて良い
  • 地域や人がたくさん出てくるのに、誰が誰だかちゃんと分かるところ。最初の人物紹介ページを見て大丈夫かと不安になったけど全然大丈夫だった。終盤に差し掛かるまでは読むペースはまばらだったのに、途中から読み始めてもお話にスッと戻れるところも
    • ”元王配”とか”西国アークラン”とか、ごくさりげなく、それが何だったかを触れてくれているのが要因かも。配慮というか、筆力というか、技を感じた
  • かえるさん以外のキャラクターも、それぞれ個性豊かながら嫌な感じのキャラはいなくて、各人に独自の魅力が備わっているところも流石としか言いようがない。一人一人のキャラクター全てが、それぞれの物語を持ってそうというか……個人パートに絞ってもっと読んでみたいと思わせるというか……そう思わせるのは、小説の技としてすごいことなのだと思う
    • まずサルコフ(おかしら)も気になるし、タッグを組むお猿のニムロッドとの掛け合いももっと読みたい。司祭たちがはきっと折に触れてタルタリアンを思い出しただろうし、エドワンだけじゃなくて成長したグレイズやガブ、ジョナタンのことももっと知りたかった。そしてイザクとオルガについても!恋仲だと言われているのに結局作中では対立したシーンしか直接は読めず、二人の仲睦まじさがどんなものなのかも気になる!
  • 騎士になってからしばらくの間の、諸国を行ったり来たりするパートは決して退屈なわけではないんだけど、中弛みというかこのパート長いなぁと感じるところもあった。それまでが、かえるさんのいるところ(子爵の家→教会→闇馬車→ザヤ…)が次々と変わっていたので、テンポが落ちたと感じたのかな
  • 電子版で読んだので、画面上に「あと●%」という表記が出るんだけど、80%過ぎても終わる気配がしなくて、これどうやって終わるの!?とソワソワした。結果、かえるさんはハラドを去り、リーディヒを打ち破ったのだけど、結局かえるさんの出生は?なんでヴィーチたちの力がかえるさんだけには通じなかったのか?そこが明かされないままで若干消化不良ではあった。(グリフィンを味方につけるのは意外で、かえるさんらしくもあって、よかった!)
    • きっと続きが出れば未消化だった部分も消化されるはずで…頼む…!

本作「ダークファンタジー」と銘打たれているのはやや不思議で、全然ダーク要素はなくて、むしろかえるさんの優しさや思いやりが柔らかく光る、ライトファンタジー(なんか意味変わってくるな)に思えます。

十文字さんの作品が、総じてグロかったり苦しい展開が多いから、そのイメージを引用しようとしているのかな。十文字さんを初めて読むよって方にも本作おすすめだし、感想の中に「学校の図書室にあって欲しい」というものも見かけて、その通りだなと思いました。

恐れず人と接すること、誠実に向き合うこと、諦めないこと、大切な人のために力を尽くすこと、そしてそれらが信頼として返ってくる喜び……そういう、根源的な大事なことが、数多く散りばめられた作品だなと思ったので。