新章突入!大人気中華ファンタジー「幻宮は漠野に誘う」が安定の面白さ

 
表紙が毎回うつくしいのです……。
本棚があったら表紙を横並びにして飾りたいほど。
そんな本棚、無いけどもね!(涙)
 
表紙に描かれているモチーフが、その巻のキーワードを表しているので
読み終わってからしみじみ眺めるのもまた楽しい。
 

 
左側は宦官服?を纏った主人公の遊圭くん、15歳。
線は細いながら、女装して後宮に紛れていた時のような女性らしさではなく、
少年らしさが表れているような。
右側の男性は、今回から新たに登場したルーシャン。敵か?それとも味方か?
男くさい屈強さが、けれども上品に描かれていますね。
(作中で臭い臭いと言われてるけど、この絵だと臭くなさそう)(謎の感想)
 
 
そして交わる二人の影、棘を持つ植物の蔓、紫色の実をつけた花弁、空を舞う鳥、幾何学模様、星空…
 
 
さあ、これらのキーワードたちが紡ぐ物語は、どんなあらすじでしょう。
(いや、ほんと見れば見るほど、凝った表紙だなぁ!)
 
 

ざっくりあらすじと感想

 

あらすじ

星遊圭は、先帝崩御の際、「外戚族滅法」によって殉死させられた名門一族の生き残り。
女装で後宮を生き延びた彼は、知恵と機転で法を廃止させ、
晴れて男子として生きることに。
……のはずが、政略結婚のため遠国へ輿入れする公主・麗華の近侍女官として、
ともに旅立つこととなる。
しかし異国の宮廷に潜入した彼の真の任務は、
金椛帝室を救うため、失われた日蝕の周期表「天官書」を探すことで……!?
傑作中華ファンタジー、新章!

 
ですって。
この時点で前巻までの大まかなネタバレになっちゃってるので、
まだこのシリーズを読んだことのない人には、ちょっと不親切かも。
シリーズもののジレンマなんだよなあ…。
 
 
今回は後宮どころか金椛国を飛び出し、初めて外の世界に触れる遊圭。
玄月は後宮にいるはずだから、彼は出てこないのかな…と思った人もご安心あれ、
玄月も遊圭と共に砂漠の国、夏沙王国をめざします。
 

↑初見は「よく分からない…」と思った地図ですが、
 読み終わってから見てみると「なるほど!」となります。
 
普段であればその才覚で自分の思う通りに事を為す玄月も、
まだ見ぬ土地、見知らぬ文化、見えぬ外敵に苦労が隠せない様子。
そんな余裕の無い玄月も珍しく、その意味でも見所の多い話でした。
 
 
そして、このシリーズを魅力たらしめているのは、
やはりそれぞれの思惑が蠢く頭脳戦、心理戦だと思うわけですが、
本作ではその舞台を外国に移したアウェー戦、そして玄月と遊圭の共闘!
金椛国の新たな帝・陽元の治世を支える、という目的を同じくした二人が力を合わせる様は、
「ここまで肩を並べるほどになるとは…」と
シリーズを追いかけてきたファンには感慨深いものがあるのでした。
 
 
先の読めない展開が続き、ハラハラしながらの一気読み!
このストーリー展開が、やっぱり本作の見所だなと、認識を強くしたのでした。
 
 
ところで金椛国春秋ってきれいでいいシリーズ名だよなぁ、と
いつもしみじみするのだけど、「椛」が変換で出てこなくて困ったこと、ありませんかね…?
 
わたしは毎回困ってます(真顔)。
 

金椛国春秋の「椛」はどうやったら変換できるか

 
これがですね、ズバリ「もみじ」なんですねえ。
 
httpss://kotobaken.jp/mado/03/03-01/
 
スッキリした〜。今まで「きんかこく」とひらがなでグーグル検索して公式HP拾って、
そこから文字をコピペしててすっっっっごい面倒だったから、これで投稿も捗りますわ🤩
 
さて、以降はネタバレ感想です。
未読の方はご注意くださいませ!
(ちょっと前までボタン押したら展開するようにしてたけど、
 めんどくさくなったのでまあそこは自己責任かなと思い直したので堂々と書いてます)
 

ネタバレ感想(表紙のモチーフの示すもの)

 
いやあ、玄月が挟み撃ちに会うことが分かった遊圭が、必死に助けようとする場面、
いつもなんだかんだ言いつつも玄月が遊圭のピンチを救ってきたことを思うと、
とうとう遊圭が玄月を助ける場面が!と、ワクワクしてしまいましたよね(同意を求める口調)。
 
玄月は無事だと思っていたけれど、それでも「そなたにはまた借りができた。礼を言う」とささやく玄月な!
グッと来るものがありますよね(再び同意を求める口調)。
 
 

ちょっとよく分からなかったのは、この場面

 

 もちろん、麗華が気に病んでいるのはそんなことでは無い。夏沙王国への旅は命がけであり、そこで遂行しなくてはならない任務には、金椛皇室の命運がかかっている。朔露賊軍の襲撃で、麗華はそのことを芯から実感したのだろう。
ーーもう少し、早く気づいていただきたかったです。公主さま。
遊圭はゆるりとした微笑を浮かべる。
「公主さま。お気遣いどうもありがとうございます。でも、わたしも今年で元服する身です。一人前の働きはできると思います。そうでなければ、主上も玄月さんも、わたしにこの仕事を任せたりはなさらなかったでしょう。わたしは、わたしの家族と祖国に対して果たすべき責務から、逃げたりはしません」(P82〜83)

 
うーん、「もう少し早く気づいていただきたかった」と心の中で麗華に言うこの場面。
 
麗華から「お前も来なさい」と言われただけではなく、
陽元と玄月に説得されて夏沙行きを決めたけれど、やはり本当は来たくなかったということ?
そもそもの発端である麗華が遊圭を連れてこなければ、こんなことにはならなかったという不満?
でも、遊圭は金椛国の危機を知り、納得して随行して来たのではなかった?
 
と、ちょっとモヤモヤしてしまった。
 
きっと、憎まれ口みたいなもので、本当に「麗華さえ遊圭を連れて行きたいと言い出さなければ、
こんな思いをしなくて済んだのに」とは思っていないけれど、つい言いたくなってしまった、
それが心の声として描かれた、ということなのかな。
15歳らしさを表したかったのかな(自己解決)。
 
 

胡娘の優しさが泣ける

 

「遊々に高山行きが無理なら、誰かをつけて送り返せばいいのだから、そんなに心配しなくてもよいのではないか。シーリーン、あんたはこの遊々を我が子のように想っているようだが、その我が子に『祖国を守るために自分にしかできなかったことを、失敗を恐れてやらなかった』、という後悔を一生させたいのか」
ルーシャンの言葉は、まるで彼自身がその後悔を抱えて生きてきたかのような重さで遊圭の胸におりてきた。胡娘は寂しそうに遊圭を見て、気まずげに視線を泳がせる。
「私はただ、遊々には生きていて欲しいんだ」
遊圭は唇の端を引いて、笑みを作った。腹に力を入れて胡娘の青灰色の瞳をのぞきこむ。
「もちろん。生きるよ。胡娘が教えてくれた通りに、何があっても生きて都に帰る。そうしないと、わたしの生きていて欲しいひとたちに二度と会えなくなってしまう」
胡娘は苦しげな笑みを遊圭に返す。
「そうだな。みなで生きて帰ろう」(P228〜229)

 
謎にちょっと泣いた場面(寝起きで読んだからかな)。
 
ルーシャンも胸にずしんとくるような、重くて正しいことを言うし、
頭ではルーシャンの正しさを理解しながら、それでも遊圭の命を何よりも願う胡娘の優しさも分かるし…。
うああああん😭ってなった。
(いや、そんな号泣ではないけどね)(目が滲んだくらいの話で)
 
 

遊圭と明々の関係性

 
前巻までずーっと遊圭と行動を共にしてきた明々、
後宮を脱出した後は、故郷で薬屋を営んでいるとか。
 
そんな遊圭と明々は連絡を取り合っているみたいだけど、
二人の関係性が何とももどかしくてふぁ〜〜〜ってなったよね。
 

「では、お前たちはもう会ってないの?」
「いえ、手紙は交わしています。都でないと手に入らない薬の仕入れと発送は、わたしがやっています。農閑期には弟と一緒に都見物にも上京してきます。そのときは三人で食事をしたり-」
「三人で?」
含むところのある問いで、麗華が話の腰を折る。やみそうにない追及に、遊圭は呼吸を整えた。
「明々の望む幸福は、自分たちの土地と家と家族、そして飢えない程度に充分な食べ物だそうです。明々の将来を思えば、政局の不安ないま、皇太子の外戚であるわたしとは深くかかわらないほうがいいのでは、と思うことがあります」(P99〜100)

 

なるほど…と、麗華と一緒にため息をついたこの場面。
 
明々の幸せを思えばこそ、一歩踏み出せない遊圭の気持ちと思慮深さもよく分かる。
逆に言えば、その程度は明々のことを、つまり好きだったのね⁈とちょっと思ったよね。
露骨にそう言う描写があまり無かった気がして。
 
これから遊圭と明々は、どうなっていくんだろう…、と
この先の展開の中で、さらに注目しなきゃいけないポイントが増えたなあ。
 
このままだと、明々は地元でいいひとを見つけて、
それを遊圭に無邪気に報告しちゃいそうだもんね。
 
明々が遊圭を男性として意識しているとは、どうにも思えないもんなぁ…
(もしかしたらそう言う描写があったのかもしれないけど、すっかり忘れている)
 
 

表紙の示すものとは

 
さて、冒頭にも書いた今回のモチーフたち、こんな感じだったんですね。
 
 
棘を持つ植物の蔓 → 後宮に持ち込まれた薔薇の棘
紫色の実をつけた花弁 → 菫児がブルーベリーと間違えて食べてしまった「狼茄子(ベラドンナ)」
空を舞う鳥 → ルーシャンの頼もしい相棒であるアスマン(天空)
幾何学模様 → 夏沙王宮に描かれていると言うタイルかなと思った。
星空 → 楊老人が人生を賭けて追い求め、遊圭が両手を伸ばした天体。
 
 
まさに今回の話を象徴するものばかり。毎回仕事が細かい!
 
ちなみにカバーイラストを担当しているのは「丹地陽子」さん。
ツイッターでお仕事情報発信してます。
 
 

httpss://twitter.com/yokotanji
 
 
どれもうつくしい……。
 
個人的には、結構好きな作品である「アイスクリン強し」の装画も担当されていると知りびっくりしました。

 
 
 

字と諱ってなんだっけ

 
今回遊圭の「諱」が分かった訳ですが、度々文中に現れる「字」と「諱」ってなんでしたっけ🤔?
と思ったので調べた。
(最後に遊圭の「諱」を書いてますが、それちょっとネタバレなので未読の方は注意で!)
 

歴史的に、中国人は個人に特有の名として姓(氏)と諱(名)と字の三つの要素を持った。
日本では大抵の中国人は「姓-諱」の組み合わせで知られる。ただし例外的に「姓-字」の呼称が通用している人物もいる。
伍子胥(諱は員)、項羽(諱は籍)、諸葛孔明(諱は亮)、司馬仲達(諱は懿)、蒋介石(諱は中正)など。

例えば「諸葛-亮」は「諸葛」が姓、「亮」が諱であり、字を「孔明」という。
諱は軽々しく用いられることは忌避され(そのため日本に入って「忌み名」と訓じられた)、
同時代人に対しては、親や主君や年長者などの特定の目上の人物だけが諱を使用し、
それ以外の人間が諱で呼びかけることは極めて無礼なこととされていた。
逆に、そういった諱で呼びかけることができる立場にある者がわざわざ字で呼びかけることは、
立場とは別に一定以上の敬意を示すことになる。

なお、その人物が官職に就いた場合は官職名で呼ぶことが優先された(諸葛亮なら「諸葛丞相」。丞相が官職名である)。
その他、非常に多いケースとして、任地で呼ぶこともあった(柳宗元なら「柳柳州」。彼の役職は柳州刺史)。
この場合、親しい間柄以外は、字で呼ぶことは、諱ほどではないにしても少々無礼なこととされていた。

前述のとおり、字は諱を呼ばないために使うものであるので、
相手に対して「劉-備-玄徳」のように姓・諱・字を連結して呼ぶことはない。
(ウィキペディアから一部抜粋)

 
 
ふむふむ。
要は、こう言うことみたい。
 

字(あざな) → 通り名みたいなもので、諱を呼ばないために使うもの。
諱(いみな) → 偉い人が部下などに対して呼びかけるくらいにしか使われない、軽々しく使ってはいけない呼び名。
 

そして、今まで登場してきた人物たちの字と諱は以下の通り。
 

遊圭は字、諱は「游」
玄月は字、諱は「紹」
凛々は字、諱は「蜀葵」
 

読み返せばもっと字と諱が分かるかもしれないけど…。
中華ファンタジーで必須の表現っぽいから、字と諱の違いが分かってよかったな🤪
 
 
さて、いよいよ元服をむかえ、己の身の振り方を本格的に考えなければならない遊圭。
どんな選択をするのか、そしてこの物語がどう着地するのか?
次巻も楽しみだな〜〜。