なるほど集大成!恩田陸の「きのうの世界」を読んだ
最新作「薔薇のなかの蛇」を読んでしばらく経ったので、また恩田陸を浴びたいな〜と思い(定期的に摂取したくなる)未読だった「きのうの世界」を読んでみました。
面白いのかな、どうなのかな…とやや不安だったのですが、裏表紙のあらすじが以下だったので、何と無く大丈夫そうだなと思い、読み進めることに。
上司の送別会から忽然と姿を消した一人の男。一年後の寒い朝、彼は遠く離れた町で死体となって発見された。そこは塔と水路のある、小さな町。失踪後にここへやってきた彼は、町の外れの「水無月橋」で死んでいた。この町の人間に犯人はいるのか。不安が町に広がっていく。恩田陸がすべてを詰め込んだ集大成。
すべてを詰め込んだ集大成とはまた大きく出たなぁ!と思いつつ、集大成というならちゃんとオチは付けてくれるんだろうと祈るような気持ちで読みました。
この祈るような気持ち…は恩田ファンあるあるだと思います。CLAMP作品に通じるものがある。
CLAMPは「風呂敷を畳まないけど模様がキレイ」と誰かが言っていたのをよく思い出す
— しらすおろし (@shirasuoroshi) October 21, 2020
畳まないけど模様がキレイ!
塔と水路の街、M町で起こった未解決の殺人事件。
被害者は一年半前に東京で蒸発した男だった。
真面目で勤務態度も良好だった男は、退職者の送別会の夜に姿を消したのだった。
塔と水路の街。そびえる3本の塔がなぜそこにあるのかは、何故か誰も知らない。
3本のうちの1本は壊れて上部が存在しないが、何故か誰も、直そうとも撤去しようともしない。
双子の老婆、落ちていた地図、駅の掲示板の不可解なメッセージ、急死した第一発見者。
この町で何が起こった?そして、何が起ころうとしている…?
そんなお話です。
基本、本は予備知識なく読んだ方が楽しいと思っている派なので、これ以上の作品紹介は控えますが、ほらほらもう面白そうでしょ!?
いろんな種類の、サラサラしたものからザラッザラのものまで、色んなヤスリで順番に撫でられていくような(それどんな感想?痛そう)恩田さんらしい”引っかかり”をたっぷり楽しむことが出来ます。
果たして風呂敷は畳まれるのか、どんな模様なのか…、ぜひご自身の目でお確かめを。
ああ、早くネタバレ言いたい。(レイザーラモンRGみたいなフリ方)
ということで、ネタバレ感想へ早々に移行します!
身も蓋もないネタバレ感想
※以下、本書のネタバレ感想が続きます。未読の方はご注意ください※
大技系スッキリモノ、今回はこれでしたね。
この一言で、恩田ファンはだいたいの成り行きが分かっちゃうのではないでしょうか。わたしが誰かからそう聞いたらすごく納得しちゃうな。
誰か「恩田陸のきのうの世界、読んだ?」
わたし「いや〜まだなんですよね。何系でした?」
誰か「そうだなぁ、大技スッキリ系って感じ?」
わたし「ああ〜😂」
ってなると思う。(なるかな?)
いやまさか、M町自体が浮島になっていて、黒い塔は超豪雨によって町が浮き上がりすぎないようにするための弁だったなんて、そんな離れ業あり!?笑
加えて、市川吾郎の死の真相が、記憶力が暴走した結果、意識だけ世界に溶け込んでしまい(?)、残された肉体(?)がフラフラ動いた結果、二重人格酒蔵経営者がブチ割った酒瓶の破片に倒れ込んだためで、破片は全てカラスが持ち去ったなんて…すごい繋げ方するね!?笑
非常に大技ながら、一応物語として成り立っていて、散りばめられた謎たちはそれぞれの機能を果たした訳なので、スッキリした終わり方と言っていいと思いました。発散して終わらなくて本当に良かった…
市川吾郎と瓜二つの弟が思わせぶりなだけで何も無かったのと、栄子さんが物語の盛り上がりのためだけに死んだ感もまた、恩田さんらしいと言えばらしい。
結末まで詰め切らずに物語を始めるのが恩田さんの執筆方法とのことなので、このあたりは後々効くか効かないか、ご本人もどうなるかな…と思いながら散りばめていったのでしょうね。そして今回はたまたま機能しなかったと。
わたしは”全てがきっちり回収される”タイプの伏線が大好きなのですが、それ以上に恩田ファンなので、この辺りのぞんざいさも含めて恩田作品の味わいと思っているから本作も面白く読んだけど…ファンではない方にとっては肩透かしというか、ちょっとびっくりするんじゃないだろうか…笑
そういう意味で、やはり万人に勧めやすいのは「蜜蜂と遠雷」「夜のピクニック」あたりの本屋大賞作品なのですよね。
本作は恩田陸中級者向けといったところでしょうか☺個人的には、たっぷりと恩田陸を浴びれた楽しい読書でした。
最後までお読みいただき有難うございました!他の恩田陸作品は、タグから飛べますのでよろしければ。