恐怖とモヤモヤのモヤモヤ寄り、阿部智里さんの「発現」を読んで
「八咫烏シリーズ」が大ヒット!な阿部智里さんが、現代を舞台に長編を書き下ろした…構想に3年かかっているらしい…
と、発売時から気になっていた「発現」を最近になってようやく読みました。
Kindleアンリミテッド対象になっているようです。加入している方はお気軽にお試しください😋
Contents
あらすじとざっくり感想
主人公の女子大生・村岡さつきは、ある日大学まで姪のあやねが一人で訪ねて来たことで、兄夫婦の家庭に異変が起こっていることを知る。
兄の様子がおかしい。父とさつきが住む実家に現れた兄の容姿は別人のように様変わりし、何より”見えないものが見える”ようになっていた。それは、かつて自殺した母と同じ症状で…
一方で、戦争孤児となり養子として山田家に引き取られた省吾は、山田家の実子である清孝の自殺の真相を求めて清孝の周辺の人物に聞き込みを行なっていた。家庭に仕事に恵まれ、死の兆候など何も無かった清孝は何故自殺しなければならなかったのか?
さつきたちの生きる平成30年と省吾が兄の死の真相を求めて奔走した昭和40年とが、ある共通項で結ばれたとき、”それ”は発現する。
みたいなお話でした。
著者が本作で描きたかった題材は明瞭で、戦争という巨大なテーマの中のとある一角に光を当て、時代を巧みに泳ぎ、忍び寄る怪異をまざまざと浮かび上がらせる試みも、成功していると言えます。
(わたしの好みの文体ではありませんが、)スイスイ読み進められ、一気に読み切りました。
ただ、ただね…面白かったかと問われると、なぜかあまり面白くなかった、という評になってしまうのですのね。
自分の中で微妙な作品だと思うと、他の方の感想がすごく気になるタイプなので、Amazonレビューや読書メーターを熱心に読みましたが笑、確かに評価の分かれる作品のようですね。
どちらのタイプか、ハマるかハマらないか、ぜひ試してみてください。
そして本作読んだらぜひ以下に続くネタバレぶっちゃけ感想をお目通しいただいて、共感できるかできないか…そっと教えていただけると嬉しいです笑
ということで、以下とんでもないネタバレが続きます。未読の方は決してご覧になりませんよう…(フラグ風)
ネタバレ正直感想
※以下、本書のネタバレが続きますのでご注意ください!※
ノンジャンルとのことですが、まあホラー×ミステリーのホラー寄り、といったところだと思います。
大変恐縮だけれど、やっぱり最後のドタバタ感がちょっとな…微妙だったんですよね…
幸せそうなお兄さんとお父さんを見てさつきは強い嫌悪感が抱く
→周囲の静止を振り切り走り出したところで、呪い(仮)の声に自死を唆されてその気になる
→そのまま道路に飛び出す寸前、ひときわ強い呪い(仮)が現れるが、それによって事故に遭わずに済む
→これまで少女だったものが、母に見えたかもしれない
→不思議とそれまで抱えていた焦燥感が薄らぐのを感じた
〜END〜
と、数ページの間にさつきさんの情緒が乱れまくり、そうかと思えば急に落ち着いたので、読み手のペースが整わないまま終わったな、なんか知らんけど置いていかれたなと感じたのが、残念だと思った理由の一つだと思います。
さつきさんの気持ちも理解できる。自分にとっての真実を得た今、自分は結婚や出産に対する絶望を抱く目の前で、ほっこりマイホームを見せつけられるのは、確かに辛い。
山田親子から告げられた言葉を、あっさりと呑み込んでしまった父と兄が、自分とは違う生き物のように思えてならなかった。
「何なの。中国行って、線香をあげるって、馬鹿じゃないの。それで何か解決するわけ。私は、怖いものを見ずに済むわけ」
大樹はこれまで、何を見ていたのか。
自分の帰りを喜ぶ娘を抱きしめ、これまで苦労をかけた妻の優しさにあぐらをかき、無邪気にハッピーエンドを喜ぶ姿は全くもって馬鹿げて見えた。
母は、父と兄と自分を苦しめた。そして兄はまさに今、鞠香とあやねを苦しめているのだ。
将来、あやねも、自分達と同じものを見て怖がる日が来るかもしれないことを思えば、呑気に笑ってなどいられるはずがない。自分のせいで他人を苦しめておいて、へらへらしていられるほど、さつきはおめでたい人間ではないのだ。この症状のせいで、結婚相手や子どもに辛い思いをさせる可能性を考えたら、結婚も出産も絶対に出来ないと思った。
でもお兄さんには最愛の妻子がいるわけで、その前提を否定しても仕方がない。さつきさんにとってはクソ食らえのハッピーエンドかもしれないけど、お兄さんはこれから自分の幻覚と戦いながら、娘へ体質が遺伝しないかと恐れながら、守り抜かないといけない。それでも、だからこそ、娘は愛おしい。そう思うことの何がいけないのかな。
さつきさんの憤りも理解しつつ、わたしにはそれが幼稚に感じられたのでした…😌
ハッピーエンドといえば、ホラーって終わり方がパターン化されてしまうところが難しいですよね。
脅威が去ってハッピーエンド路線か、怪異が去らないバッドエンド路線か。大きくその二つしか無くて、その中にバリエーションがあるってイメージ。
今回だったら、共存する系バッドエンドですよね。あと多いのは、一見解決したように見えて安心している登場人物から見えないところで、新たな怪異が生じてる…みたいなのとか笑
この二路線に収まらない新機軸に、いつか、ふとしたときに出会いたいものです。
(でも、これ新機軸ですよ!って紹介したらそれそのものが1000%ネタバレなので、出会えたとしても紹介が難しいよなあ)(要らぬ心配)
八咫烏シリーズでも時折感じたのだけど、著者は恐らく意図的に、「身近に転がる真実の恐ろしさ」「良いものとされている・そう見えるものが実はそうではなかった気持ち悪さ」を扱うことがあるように思います。わたしはそれが苦手なのかも。
「ほらほら見てくださいこれ!これってわたしだけが気づいてるんです!実は気持ち悪いんです!」…という主張が強すぎて、槍玉感というか…こういうのみんな好きでしょ!?と押し付けられているような感じてしまうのです。
そこが読みどころだとも思うので否定はしませんが…、うん、わたしには合わないのかもしれない。
とはいえ八咫烏シリーズは非常に人気ですし、最新刊「追憶の烏」(しっかりチェック済)もすごい展開になっていると耳に入ってきて、面白いんだろうなとは思うのですよね。
確か「玉依姫」まではしっかり読み、その後追っていないので、新刊が出るたびに最初から一気読みしたらハマるのでは…?とソワソワしています。
とはいえ、ホラーと聞くと毎回「残穢」の恐ろしさがフラッシュバックしていて、でも内容は忘れてしまったからただ「すげ〜怖かった」という恐怖感だけ残っていて…笑 それを再読して確かめたくなるのですよね。個人的に、ホラー小説で一番怖い作品だと思います。名作。