あやうく一生懸命生きるところだった、個人的にはタイトル一発屋だなと
タイトルと表紙の青が印象的で、書店で見かけてからずっと何となく気になる存在として心の片隅にいた本書。
ちょうど仕事(都内会社員)が忙しい時期だったこともあり、このタイトル「あやうく一生懸命生きるところだった」が、妙に心に刺さったのでした。
韓国の方の、同じようなテイストのエッセイが書店に並んでいるのを見かけたので、ちょっとしたブームが起こっているんだなと実感してもいました。
(BTSの躍進や愛の不時着・梨泰院クラスの人気もあって、また韓流の波が来ていますよね)
作者同じかな?と思うエッセイたち。(みんな違う人)
「トッポギ…」もタイトルが面白くて気になるのだけれど、まずは代表作みたいな顔している(いや、作者は全部違うから代表作も何も無いのだけど)本書を読んでみることにしました。
ざっくりあらすじ
【「心が軽くなる」と話題の韓国のベストセラーエッセイ】
Amazonより
★韓国大手書店 KYOBO文庫「2019年上期ベスト10」
★韓国のネット書店YES24「2018年最高の本」
★「人生に悩み、疲れたときに立ち止まる勇気と自分らしく生きるための後押しをもらえた」
――有安杏果さん推薦!
東方神起のメンバーの愛読書としても話題となった、
心がラクになる、ベストセラー人生エッセイがついに邦訳!
「こんなに一生懸命生きているのに、
自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、
やりきれない気持ちが限界に達し、
40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞め、
「一生懸命生きない」と決めた著者。
★ムリしてやる気を出さない
★みんなに合わせない
★金持ちを目指さない
★失敗したら、いさぎよく諦める
★なんでも深刻に向き合いすぎない
★「年相応」に縛られない
★「やりたい仕事」を探そうとしない
★何もしない一日を大切にする……
全力で走り続けることを辞めたことで見えてきた、
自分をすり減らす毎日から抜け出し、
自分らしく生きるコツとは?
いや長っ!
わたしは基本的にあらすじを見ずに読み始めるタイプなので、ブログを書くにあたって、今初めてあらすじを読んだのですが、何だかちょっとあやしい情報商材みたいな匂いがする…笑
読んでみて、何だろうなこの違和感
読むこと数時間…、結論を申せば、残念ながらわたしの好みではありませんでした。
何だろうなあこの違和感。
#あやうく一生懸命生きるところだった、を読みました。
— はつね (@hatsune_ss) December 20, 2020
タイトルが秀逸すぎて中身に期待しすぎてしまったな。40歳で会社を辞めて、自由に生きることにしたおじさまのエッセイ。
なぜ面白いと感じられなかったんだろう?と、ちゃんと考えることがむしろ読んだ価値になるかも。ブログ書こうっと pic.twitter.com/ktt1CJI53T
思わずツイッターでもぽろり。
面白くなかったと読み捨てることは簡単だけど、世の中で流行っているものを自分が感じ取れなかったのは何故なのか?と考えることがむしろ大事だと思ったので、ちゃんと考えてみようと思いました。
どこがどう微妙なのか?
文体がポップなのは、別に構わないのだよね。
ただ、この大事なところを強調するのにポップなフォントを使うセンスってどうなの?若い人向けってこと?
でも本書は40歳にして会社勤めをやめて、自由を謳歌することにしたおじさまのエッセイなのだ。それにしては、ちょっとポップ過ぎやしないかな?
そして中身。
先に述べたように、著者がある日突然、ふらりと勤めていた会社を辞めるところから始まります。
転職するわけでもなく、イラストレーターとの二足の草鞋だったところから、やっぱりイラスト一本で食べていく!と決意したわけでもなく、本当にふらりと辞めることにしたみたい。
すごいよね、中々真似できることではないよな…
幸せになるどころか、どんどん不幸になっている気がするのは気のせいだろうか?
プロローグより
そう考えたとき、後悔が襲ってきた。
いや、後悔というより悔しさだ。
あと10分我慢して登れば山頂だと言われてひぃひぃ登ったのに、10分たっても頂上は現れなかった。
(中略)
そう、40歳はターニングポイントだ。そんな理由から、決心した。
今日から必死に生きないようにしよう、と。
著者のこの悩み自体は、それは、それはもう深く共感する。
誰もが語ることだけれど、世の中の不確実性はどんどん高まって居て、先の見えない、走ってもゴールがあるのかも分からない中を、みんなが必死に考えながら手探りに進んでいるような状況は、動かしがたい事実でしょう。
世の親御さんたちは、せめてもの…という気持ちで、子どもをいい大学・いい就職先に進ませることで将来を保証しようとするけれど、保証なんて無いし、それが苦痛と思うお子さんも多いと思う。
誰でも考えたことのある「自由に生きれたら」を実際にやってみた、のが著者であり、その記録が本書なのでしょうね。
その行動自体には興味があるし、自由になった結果も見てみたい。
興味を持って読み始めたはず、なのだけれど。
残念ながら、書かれていることが、どこかで聞いたような言葉が連なっているだけのように思えてしまいました。
他人のスピードに合わせなくていい、
人の人生は全てユニーク、
本当にやりたい仕事は“訪れる”もの、
失敗してもいい。失敗しても後悔すればいいだけ…
これらは全て太字で書かれている作中の言葉なのだけれど、やっぱり情報商材みたいな匂いが消えない、感じがしてしまう…笑
自己”不”啓発本だ、という表現も見かけたけど、わたしからすれば自己啓発本以外の何者でもない。
頑張れ頑張れという呪いではなく、自由に自由にという呪い。
正解が無い中で、説得力もない意見を聞かされるのは、内容が何であれ呪いのようだ、と感じてしまうのです。
そう、恐らく、著者の考えだけが延々と続いているところに、本書の薄さ・説得色の低さを感じ取ってしまったのだと思います。
エッセイというのは、著者の日常の出来事があり、そこから著者の考えが展開され、結果として一般化された気づきに昇華される(=著者がちょっと上手いこと言う)、というスタイルが多いと思うのだけれど、本作は著者が自由な時間を謳歌している中で、あるいは過去の自分を振り返ってみて、思ったことがツラツラと書かれています。
※たとえばわたし、浅田次郎さんが機内誌で連載している「つばさよつばさ」が大好きなのだけど、お説教くさいところは多少あるけれど、旅先あるいは旅にまつわる出来事から何らかの教訓や警句に短い頁で着地していて、毎回お上手……と思わされています。
その考えに到るまでに経緯が書かれていないので、突拍子も無い感じがしてしまうのでしょうね。
著者の考えそのものよりも、韓国の文化が感じ取れる描写が興味深かったし、度々日本の映画・漫画作品を取り上げることの方が目を引いてしまいました。
(そこに興味を持ってしまった時点で、エッセイとしてはイマイチってことなんだろうな…)
「お金持ちになってください」と声を掛け合うこと、
将来は飲食店を開きたいと思う人が多いこと、
韓国一の美大をめざすばかりに全てを奪われてしまう「ホンデ病」…
韓国の社会文化は、日本と通じるところもありながら、より一層、競争社会・物質主義が目立つように感じます。
だからこそ、その流れに逆行するように、自由に生きることにした著者の言葉が、疲れた人たちに響くのでしょうね。
それから、著者の言葉そのものがわたしに響かなかった理由はもう一つあるな、と思いました。
それはわたしが仕事に対して、単にお金を稼ぐ以外の目的をすでに見出してしまっているから、なのかもしれない。
以下、(珍しく)ちょっと真面目な話が続きます。
仕事ってそもそも何なんだ?
社会人として大学卒業から10年くらい(えっ10年?!一瞬だったわ…書いてびっくりしたわ)経ちます。
時々、どうして自分は仕事してるんだろうなあ、と思うこともあります。
今のところのわたしなりの考えと、このエッセイの著者との違いについて、せっかくなので書き綴ってみます。
わたしは仕事ってものは、自分が得たい対価と、自分が差し出せる時間と、自分が仕事に何を求めるか、のバランスなんだろうな思っています。
仕事ってものは突き詰めると、自分が提供する価値と、世の中的に見合った金銭と交換する行為だと考えていて。
需要が高かったり珍しいスキルがあれば得られる対価(の単価)も高くなる、単価が高いから長い時間働かなくてもいいし、(時間給であれば)時間を掛け合わせたらその分沢山のお金が得られる。
もしそういうスキルが無ければ、残念ながら得られる対価(の単価)も低くなってしまう。そうなると、必要なだけのお金を稼ぐには自分の時間を切り売りするしか無くなってしまう。
そして、「自分が仕事に何を求めるか」という、価値・対価に並行して存在するもう一つの軸。
この3つがバランスすることが大切なのだと考えています。
趣味に人生を捧げたい人は仕事はそこそこで良いと考えて当然だと思うし、逆に仕事を趣味と捉えて、それに没頭・邁進する人もいると思います。
わたし自身はと言えば、仕事によって得られる金銭以外の価値もあるはずだ…と、ここは信念というか願いに近いものを、10年働いても抱いています。
(例えば人間関係だったり、やりがい・楽しさ・熱中・ロマン・次の仕事につながる経験だとか…)
それは、今自分がやっていることが、長い目で見れば、自分自身の成長(※1)と社会への貢献(※2)につながっていくと信じることができているから。
だから、仕事が楽しい(※3)なと思うことが出来ています。
※1 自己実現といってもいいかもしれない。社内で認められることが、社会的立場を築いているのだという自尊心・自己肯定感につながるのかもしれない
※2 仕事内容を伏せているので伝わりにくいかもしれないけれど、社会に価値をもたらす仕事だと思っているのかもしれない
※3 仕事内容を以下同…。就職活動をしてて、ロマンのある仕事だと思ったし、働いていてもロマンがあると未だ思えている。現実はそれだけじゃないけれど
(言い訳のような注釈笑)
勿論良いことばかりの薔薇色の社会人人生、では全く無くて、特に今の職場はわたしがやりたいと思っている仕事では無いし、残業も多いし、辞めちゃう人もいるし、なんでこんなことを、それこそ一生懸命やらないといけないんだろう…?と思うことも、そりゃもうたくさんあります。
家に買ってきても疲れて本を読む気力もなく、何と無くスマホをいじっていたら寝ないといけない時間になってて、ああ何もしていないのにまた明日も朝から晩まで働くんだ…と絶望しながら布団に潜り込んだりもします。
今の仕事が自分にとっての唯一絶対の正解だとも思っていないので、本当にやりたい仕事ってこれなのかな?
他にやりたいこと、もっとこれだ!と人生を捧げられるものがあるのでは?
…とモヤモヤすることもあります。
……ので、自己啓発本に引っかかって益々モヤモヤしたりもします……笑
それでもやっぱり、わたしは仕事に楽しさや成長や、その先の社会を期待したい。まだ期待できている。
だから、年が明けても電車に揺られて会社に向かうと思います。ただの綺麗ごとなのかもしれないけれど。
そのうち管理職になったり、例えば子どもが出来たりして、辞められない理由ばかりが増えていくのかもしれないけれど。
それでも。
だから、この本を読んでいると、とにかく楽に生きたい、この息苦しさから逃れたいと、それだけをヒシヒシと感じたのが、共感半分・違和感半分の根本だったのだと思いました。
わたしだったら多分、何のアテもなく仕事をふらっと辞めたら、不安になってしまうと思うのだよね。
周りの人のどう思われるだろう、親や友だちにどう説明したらいいだろう、毎日寝てばかり居て、このままでいいのだろうか、自分の価値って何なんだ、何も生み出さなくていいのか……
なんてことをぐずぐず考えてしまって、どんどんネガティブになってしまう気がする…笑
だから身勝手だけれど、のんびり出来ている著者のことが羨ましくて、「仕事に対するスタンスがな…お金のためだけには、それは働けないよね…」と、分かったようなことを思ってしまうのかも。
ダラダラしているだけの人が書いた、どこかで見たことあるような美辞麗句を書き連ねた薄っぺらな作品がたまたまヒットする。
それによって著者はダラダラしているだけでお金が稼げてしまうから、ほらやっぱり仕事なんてしなくていいのだと、それに感化された人も考えてしまいそうで、それにモヤモヤしてしまう。(実際には著者は、ヒット作を生むことが出来た”何か”と、文章を書き続けるという努力をしているので、本当にダラダラしているだけでは無いと思うけども)
全てはきっと、のんびりする才能のある著者のことが、羨ましいから笑
お口には合わなかった、それでも
それでも、タイトルにはやはり輝くものがある、と思います。
あやうく一生懸命生きるところだった……、
“あやうく”という四文字から、世の中全体がその方向に向かっていて、同調圧力が働いていることが読み取れる。
”生きるところだった”と過去形にすることで、著者はその圧力から軽やかに逃れたことがうかがえる。そしてその脱出を自ら揶揄するようなユニークさ!
ううん、秀逸だなあ。
真面目な人ほどつらい道から逃れられずに心身の体調を崩してしまう。
それだったら、その道を進むのをやめればいい。
それは分かっていても、負けたくない気持ち・世間を気にする気持ち・期待に応えたいという気持ち……何より自分自身が、その道から外れることを許さない。
そんな時に、ふとこのタイトルを思い出せれば、あるいは本の中身に、救われる誰かもいるかもしれない。
わたしは読んでみて合わないなと思ったけれど、評価する人がいるから25万部も売れている訳で。
タイトルに惹かれた方は挑戦する価値、あるかもです。
最後までお読みいただき、有難うございました!
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