現代人が失ったものがここにある、「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」
Kindleでセールだったので思わずポチりましたが、いやあこれ、予想以上に良かったです。
セールなら絶対に““買い””だし、気になる方はもちろん定価でも。
電子で買いましたが、書籍で家に置いておきたい。
表紙のイラストもとっても素敵だものね。ゆるくて、かわいくて。
Contents
ざっくりとした感想
さて、女芸人「阿佐ヶ谷姉妹」のエッセイです。
ご存知でした?このお二人、見た目はとても似ていますが、血縁関係は無いのですよ。
(前略)
「はじめに」より
「人生中盤にさしかかる独身女性2人が、6畳1間のアパートで同居している」という事が、様々な形で不思議がられ、とうとうそれを書いてみませんか、というお話にまでなりました。自分達としては変わった事をしているつもりではなかったのですが、世間さまからはどうも謎らしいです。
阿佐ヶ谷姉妹の日常、ほんとうにちょっとしたこと…ふたり暮らしの本当にちょっとしたイザコザとか、ファッションのこととか、お買い物事情とか、阿佐ヶ谷でよく行く飲食店のこととか…最近の悩みとか…
そんな“由無し事”を、姉妹が交互に書き綴っていきます。
1つのお話が数ページで構成されているので、さらっと読めるのも嬉しい。
最近TVでよくお見かけするから意外とものすっごく稼いでいらっしゃるのかもしれないけれど、とにかく慎ましやかな生活を送っているお二人。
街の人からお裾分けをいただいて、行きつけのご飯屋さんで安心のご飯を美味しく食べて、散財もせず(でも、お姉さん(エリコさん)と妹さん(ミホさん)では、お給料は折半なのに貯金はミホさんの方が2倍なのですって!)、自炊をして、6畳1間に二人暮らし。
二人の悩みといえば、お姉さんは「大人の会話(初対面の人と良い感じに会話する方のね)が上手くできない」、妹さんは「観葉植物にヤスデが発生する」こと。
良い……とても…良い…
現代人が忙しなさの中で失ってしまったもの、蔑ろにしているものがここにあるぞ、という感じが良い。
日々仕事に追われ、帰って寝るだけの生活が続いたり、休日も疲れ果てて布団から全く出られないまま夕方になってしまったり、思わず深酒してしまってやっぱり休日を潰してしまったり…。
なにかしたいと思っているのに動けなくて、ああ出来なかったとまた自分を責めて、モヤモヤが晴れないまままた仕事に向かっていって…。
↑これ、わたしのことです。
少し前まで仕事が結構忙しくて、まさにこんな感じの、社畜極まれりという生活をしていたところだったので、余計に沁みたのかもしれません。
(今は少し落ち着きました。ブログもやっぱり、心の余裕が無いと書く気にならないのですよね…忙しくてもちょこちょこ何らかの本は読んでいますが、感想をまとめる気力がね…)
仕事より大切なものがあるんじゃ無いか。
ささやかで愛おしいものを、どうして抱きしめたままで生きていけないのか。
家族や友人、地域社会とのつながりを大事にせずに、心は満ち足りるのか。
お二人の暮らしぶりがやさしくて慎ましい程に、自分の荒んだ暮らしと対比して胸が苦しくなりました。
えっ、そんな話だっけ?
読めばきっと、阿佐ヶ谷姉妹のことが好きになりますよ。善良さが溢れ出ているのがとても良い。
以下、印象的だった場面をいくつか引用させていただきます。
触れれば分かる良さがある
姉に、私の老化してる所どこだと思う?と聞くと、同じ事を何回も言う所だと指摘されました。ちょっと開いてる引き戸を見ると、
「妄想老後」より(妹さん)
「あの隙間は猫が通りそうだな」
と必ず言うそうです。なんじゃそりゃ!
阿佐谷には、隣町高円寺と比べて、おしゃれ女子が通うような洋服屋さんというのは極めて少なく、どちらかというと、私達よりも1、2段階ご年配の方向けの「洋品店」や「ブティック」が多い気がします。
「人の振り見て我が振り直せ」より(お姉さん)
そのお店を見るに、これは何色と言ったらよいのかわからない色ばかりが並んでいて、ヨモギ色と灰色を混ぜたような色や、黄土色にクリーム色を混ぜたような色……とにかく、自然界に帰る前の色、と言ったらよいのでしょうか。人間もいつかは土に戻るのだから、徐々に身に着けるものもそのようにしていった方がいいのですよ〜と何かの啓示があったかのごとく、はっきりしない色ばかりが取り揃えられているのです。
「私、気付いたの。今の、ここが好き」とみほさんがかなりガチな表情でつぶやいた時は、下町の糸井重里参加と思いました。いや、糸井さんはこんなベタなキャッチコピーは作られないでしょうけれど。
「奇跡ってあるんだね’17」より(お姉さん)
個人的には、お姉さんの語り口の方が好きだなと思いました。
お姉さんの方が、語り口が丁寧な感じなのですよね。穏やかで、のんびりしているような。妹さんの方は、同じようなですます調でありながら、ちょっとお転婆で奔放な感じが伝わってきます。
逆に、姉妹が本作で恋愛小説を書き下ろしている(←!?!?)のですが、小説は妹さんの方が好みに合いました。
それにしても、行きつけのお店があるっていいな…。
(ネタバレなので引用は控えますが、中華定食屋さん「朝陽」の親父さんとの会話のシーン、思わず泣いてしまった)
少し前までは、恥ずかしさと寛げないからって理由で、店員さんに覚えられるのが苦手だった。(むしろ認識されたと思ったらもうそのお店には行けない病にかかっていた)
今は、少し厚かましくなったのか、自意識のこじらせが薄れたのか、お店の人と仲良くなりたいな、と思うようになった。
せっかくその街に住んでいるのに、街の人が誰もわたしのことを知らないって、透明人間みたいで寂しいなと、思うようになったのだな。
そうそう、地域社会とのつながりって大事だな…と思う小説を最近読んだので、こちらもオススメしておきます。
北海道・札幌をイメージした架空の町を舞台にした、人外が存在する世界での探偵モノ。
本筋も面白いのだけど、読んだ感想が「地域社会とのつながりって…大事だな…」に終始したので。笑
電子書籍だとたまにセール対象になっています。ご興味ありましたら。
最後までお読みいただき、有難うございました!