恩田陸の自伝的青春小説「ブラザー・サン シスター・ムーン」

 狭かった。学生時代は狭かった。
 広いところに出たはずなのに、なんだかとても窮屈だった。
 馬鹿だった。学生時代のあたしは本当に馬鹿だった。
 おカネもなかったし、ついでに言うと色気もなかった。
 二度とあんな時代に戻りたくはない。(書き出しより)

 


 

恩田陸作品は4象限に分けられる

(スッキリ×モヤモヤとミステリー×青春)という持論に当てはめると、
モヤモヤ×青春になるでしょうね。珍しいパターンです。
 
 

あらすじとざっくり感想

 
同じ高校時代を過ごした”ザキザキトリオ”(三人とも苗字に崎がつく)が
三者三様の大学生活を回顧する短編集です。
文庫版では、物語の核となる三人の出会いを描く「糾える縄のごとく」と、
登場人物のモデルとなった恩田さんの大学の先輩(一般人)との特別対談が収録されています。
 

※糾える縄のごとしってなんだっけかな…と思ったら、
「災いと福とは,縄をより合わせたように入れかわり変転する」という意味の
「禍福は糾える縄の如し」が元のことわざでした。すっきり、、😇
 

モヤモヤに位置付けたのは、ストーリーがあるようで無い(ように感じた)から。
三人の恋模様もあるようで無く、大人になってからの接点があるわけでも無く、
それぞれの好きなものー本、音楽、映画ーに打ち込んでいた”あの時代”を振り返るだけだから。
 
劇的な展開もなく、静かに、淡々と語られていく”あの時代”。
青春と呼べるほどの爽やかさはなく、かといって退廃的でもない。
社会に出る直前の、子供でも大人でもない中途半端さを抱えて、
無為な時間を過ごしては後悔して、けれどまた同じような過ごし方をして…
 

どんな学生時代を過ごしたか、によって
共感できるかどうかが大きく分かれる作品だと思います。
あるいは、時代や場所の違いもあるのかな?
恩田さんと同年代・同窓の方は「あの感じね!」と分かるのかしらん(恩田節)
ちなみにわたしは恩田さんと出身大学が一緒(学部は違う)なので、
特別対談で語られる大学の空気感は通じるところがあり、
なんなら特別対談が一番面白かった…かも笑
 

恩田さんの初の自伝的小説、”あの頃”の空気感を味わいたい
コアな恩田ファンもしくは同年代・同卒の方にはおすすめです。
(それ以外の人はまあ、別に読まなくてもいいのかもしれない…🤔という婉曲表現)