筆力を感じさせるどっしりファンタジー「王都の落伍者 ソナンと空人」

_人人人人人人人人_
> これはいいぞぉ! <
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と、思わず昔ながらの(?)突然の死AAを使いたくなるくらい、良い本に出会いました。

知る人は知っているであろう「黄金の王 白銀の王」というファンタジーで確かな存在感を発揮している、沢村凛さんの書き下ろし新作です。

これがね…いいんですよね…男と男の、熱い物語…

さて、「王都の落伍者」ざっくりあらすじと感想をご紹介していきますが、正直なところ、本格ファンタジーが読みたい人は以下のあらすじなどを読まずに、もう手に取って読んでしまった方がいいような気がしました。(このブログの意味よ)

わたしは予備知識も全くなく、文庫裏表紙のあらすじすら見ずに、表紙の雰囲気と沢村凛さんという作家名でパッと買った派なのですが、序盤の仕掛けに「ほう…?」と感心し、引き込まれたので、予備知識無しの方が楽しめるんじゃないかなあ、と思いました。

本格ファンタジーと表現しましたが、世界観がすごい!
というよりも、著者の筆力がキラリと光るところが、本格と言いたくなる所以だと、個人的には思いました。

風景の描写、登場人物の言動、主人公の心理描写…それらの表現が無理なく、違和感なく、スーッと入ってくる感じ、というか。

ファンタジーの醍醐味である、“ここでは無い何処か”に連れていってくれる力の強さ、というか。


“本を読んでいる”感覚ではなく、“頭の中の風景を見ている”感覚を味わえる、というか。

わたしにとっての筆力とはそういうもので、この作品にはそれがあるな、と思いました。

興味を持たれた方、ぜひお試しくださいね。
主人公にはイマイチ共感できなかったりはするんだけども…笑

えっ、そうは言ってもあらすじも知りたい?という方は、どうぞ下にお進みくださいませ。

ざっくりあらすじと感想

名将軍のひとり息子として生を受けながら、退廃した生活に甘んじる青年・ソナン。自らの悪事が発端で死に瀕するが、朱く長い髪をもつ神・空鬼(そらんき)のたった一度の気まぐれで、名も知らぬ異国へと落とされる。しかし、その地・弓貴(ゆんたか)では古来からの統治者が反逆者に追いつめられ、全員で討ち死にしようとしていたーー。終わったはずの人生から物語が動き出す。執筆4年、1800枚の傑作ファンタジー。

言葉の響きが沖縄っぽい感じだな?と感じました。
和っぽくも洋っぽくも中華っぽくもない雰囲気の世界観が珍しいような。

あらすじでお察しの通り、主人公のソナン青年が結構ダメなやつで、不良という感じではなく、空虚で薄っぺらい人生を過ごしてしまった哀れさがあって。

何事にも本気になれない、その場その場の楽しさを優先してしまう…そういう愚かな部分が少なからず自分にもあるので、同族嫌悪というか、堕落していく様子を読むと、つらいなあ…としょんぼりしてしまう感じ。

そんなソナン青年が、神さまの気まぐれによって異国の地で新しい人生を歩み始めるお話なので、空っぽだった人生に大事なものが注がれていく様子は読んでいてホッとするし、「頑張れよ…!」と応援したい気持ちも湧いてきます。

なので、登場人物に感情移入する!という面白さではなくて、そういう青年の物語を俯瞰して眺めるようなタイプの作品だと思います。

わたしはどちらかというと、作中で深く感情移入したり、登場人物のことを好きになることで、その作品にズブズブ嵌っていくタイプの読み手だと思っているので、その意味では本作は好きになるタイプでは無いのだけど、それでも面白い!買って続きを読みたい!と思うのは、やはり筆力の為せる技のように思います。

ファンタジー好きの方は、読んで損はないと思いますよ。

以下、ネタバレ感想で主人公・ソナン青年についてもうちょっと触れていきたいと思います。未読の方はご注意くださいね。

ネタバレ感想:ソナンくん、ちょっとそこ座りなさいよ

家庭環境がな〜〜〜〜、かわいそうなことはよく分かる。国を支える将軍の一人息子として生まれ、母親はおらず、家の中は暗く寂しく、誰も彼に愛情を注いではくれなかった幼少期。

それでも、優れた剣の腕がありながら、そして美人の許嫁が居ながら、剣術大会で優勝した時に、街のお姉ちゃん(娼婦的な?)にもらった花を渡しちゃうとかさ〜〜〜!ダメ・オブ・ダメ!!!

因果応報ともいうべき経緯で死の淵に立たされ、空鬼の気まぐれによって異国の地で、空人として生きることを選ぶソナン。

自分の欲しているものを見つけた、仕えたいと思う王を見つけた、という彼の喜びは少し羨ましい。そのように、雷に打たれるように、自分の人生を捧げたいと思えるものに出会ってみたいな、と思うから。

でもな〜これまでの所業があるだけに、素直に応援しきれないんだよなソナン青年。すーぐ暴走してしまうし、早とちりするしな…もうちょっと落ち着けよと。まあ、彼の年齢をよく分かってないけど、おそらく10代後半なんだろうから、仕方のないことかもしれないけど。

ついつい、王さまに使える上下の丞(右大臣左大臣みたいなお爺さんたち)の方に肩入れしたくなってしまうよね。わたしも突然こんな闖入者が現れたら絶対めちゃくちゃ警戒する。

とはいえ、ソナン青年に悪気があるわけではなく、読んでいて不快になるわけじゃない、むしろ彼のしでかすことの顛末を見届けたくなる引きの強さに転換させる、このバランスが絶妙だったなあ。

終盤、ソナン青年が青の姫を取り違えてしまって、でも王様が激おこで、見染めた相手と違うのに撤回させずにそのまま結婚させようとして、それを止めたい臣下たちが見事な連携を見せて…というドタバタ劇が面白かった。
側近たちが、僻地の領主となって王都を離れていくソナンに対して「遠くで活躍しててほしい奴」みたいに評しているのも笑った。

なんだろう、すごく分かる。

2冊同時発売で、完結までの続刊もすぐ発売してくれるところが、すごく親切だなと思った。すぐさま、続きの「鬼絹の姫」を読み始めました。