新刊が待ちきれないので「黄昏の百合の骨」も読んだ
「一緒に飛んでいってくれる?」
単行本P228より
全てを捨てて。
無意識のうちに、そう呟いていた。
「--いいよ」
「麦の海に沈む果実」の続編です。結構改行が多めなので、サクッと読めてしまうかも。
前作「麦の海に沈む果実」は、暑苦しく感想書き散らしていますので、そちらも宜しければ。
かつて祖母と暮らした”魔女の家”に舞い戻った理瀬。古い館に住んでいる血の繋がらない叔母たちと慎ましく暮らしながら、祖母から託された”魔女の家”の秘密を探るが…?というお話です。
もちろん前作を読んだ方が楽しめますが、独立したストーリーなのでこれだけ読んでも十分面白いと思います。
恩田さんと”古めかしい題材”って、本当に相性抜群ですよね。
「私の家では何も起こらない」みたいな、仕掛けと秘密がいっぱいの古い館(家ではなく、”館”がポイントですね)の描写に、それだけでワクワクしてしまいます。
夜を流し込んで固めたみたいな、冷たくて、密やかで、濃密な空気感に魅了されます。恩田さんのこの文体、とても好きだな。
この文体の雰囲気が、そのまま理瀬の魅力にもつながっているのだと思う。老成したところがあると皆に言われながら、まだ少女の心を失っていない理瀬。悪の道へ進む決意をしながら、そのために失うものを思う感傷的で繊細な心の動きに触れて、(悪の道を応援するわけではないけれど)彼女の行く末を見届けたいという思いを強くしました。
知的で冷静で美しいダークヒロイン…記憶おぼろげなので全然違うかもしれないけど、「白夜行」を思い出しました。もう1回読みたいなあ白夜行。
あ、前作(麦の海に沈む果実)に登場する”あの人”があっさりと名前の出演をするので、お好きな方はぶっ倒れないように気をつけましょうね。←何回読んでもギャァァとなった人
シリーズものなので、ネタバレ感想を厚めに書きたいと思います。
未読の方、ぜひ読破して一緒にきゃいきゃいしましょうね。
ネタバレまくり感想
※今回は特に、物語の結末に関わる超重大ネタバレが含まれますので、未読の方はマジでご注意くださいませ※
雅雪〜〜〜〜〜〜〜〜!(グッッ)(心を掴まれる音)
あと、女って怖い〜〜〜〜〜〜!!!
この二点に尽きると思います本作の感想。もう他に他に何も言うことない。
雅雪、すごく良かったですね。何しろ公式で黎二に似てる設定だし、加えて、黎二に負けず劣らず(むしろ黎二よりも?)観察眼が鋭く、優しい性格で、将来も有望と来たもんだ。(誰?)黎二に落ちた女は雅雪にも落ちると思います。笑
「水野、なんていうの?」
単行本P40~41より
「え?」
「名前」
相変わらず雅雪はぶっきらぼうだ。理瀬はふと懐かしい気分になった。雅雪は、どことなく黎二に似ている。胸の中をほろ苦いものが過ぎった。黎二と似ているだけに、かえって雅雪のいる普通の世界との距離が際立つ。
ギャァ!(鳴き声)
理瀬が亘と寝たこと、理瀬が稔に対してあっけらかんと「気持ちよくアメリカに送り出してやれと言ったのは稔よ」と言い放ったことにショックを受けている自分がいました。理瀬ちゃん…清純である必要はないんだけど、そんなジョークは言わなくても…
ちょっと気になったのは、理瀬から祖母へ書かれた手紙。まだ学園に入学したてのような文章だったけれど「ジュピター」のことを聞いているのは、どういう状態なんだろう?この頃の理瀬は記憶を失っているはずだから、ジュピターのことを探る余裕は無かったと思うのだけれど。(もしかして、「麦海」での理瀬は、すべて演技だったとか…?)
おそらく本作読むのは今回で3回目だと思うのだけど、何回読んでも最後の数ページにめちゃくちゃ要素詰め込んできてちょっと笑ってしまう。梨南子さん怖すぎんか。立派なサイコパスじゃん。
梨南子さんの『彼女』もぜひ、日本に乗り込んできて欲しいな。ヨハンと戦ってくれ。
ところで、理瀬の絶体絶命の危機に稔が助けに来るのはまあ順当として、雅雪くんが来るのは読者サービスなのかなぁ。稔くん、その気になったら理瀬と梨南子さんの家の住所、雅雪くんに聞かなくても分かりそうなものだものね。
最後、意味深なモノローグが挿入されていることを再認識して、「薔薇のなかの蛇」への期待が一層高まりました。
そして、二人の少年が静かに準備を始めていた。将来再びめぐりあうことになる少女にその道が繋がっていると、一人は知っていて、もう一人は知らずに。
単行本P306より
二人の少年って誰だろう…!と想像するだけで楽しいですね。雅雪と慎二かな。それとも亘かな。でも亘は少年って年齢ではないかな。ヨハンのことかな。などなど。
はあ、5月の新刊発売が本当に楽しみ。
思えばこの「黄昏の百合の骨」が発売された17年前(ヒッッッ)も、発売が待ち遠しくて、ドキドキしながら噛みしめるように読んだものでした。(わたしも高校生だったから、理瀬の情事に怯んだところもある。恩田さんって、そういうシーンをほとんど挟まないし)
次も、早く続きが読みたい気持ちと読み終わりたくない気持ちとがせめぎ合いながら、密やかで濃密な読書の時間を過ごせることでしょう。とっても楽しみです。
書影出ましたねー!(楽しみ〜!)