いろんな意味で予想外!「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」

すっごい長い作品名なので、「ブログのタイトルが長すぎる!」みたいな警告が出てしまいそうですね🙄いや、出たとしても痛くも痒くも無いんですけども。

さて本作、鮮やかな黄色の表紙と本好きの興味をそそるキャッチーなタイトルが印象的ですよね。

2018年刊行なので数年前からずっと気になっていた状態がダラダラ続いていたのですが、先日何かのスイッチが入ったように「今だ!」と思い、図書館で借りてきて一気読みしました。

わたしは本作を「男性著者が出会い系で会ったちょっと荒んだ女の子たちに本を紹介していく笑いあり涙ありお色気ありのノンフィクション」だと勝手に想像していたのですが、(表紙が女の子のイラストなので…)読んでみると全然違っていて、その全然違う感じが心地よかったです。笑

また、著者の「本」にかける知識の幅広さ・情熱の力強さと、作中で実際に本を紹介するときの注意深く選ばれたであろう言葉たちが印象的で、ネットの片隅でこうして読書ブログをやっているわたしも、なんなら”本をすすめる側”であるから、参考になるところも沢山ありました。

そして、作中で紹介されている作品たちが面白そうで!一冊まるまる、ストーリー仕立ての選書本にも思えました。

ということで、色々と予想外でしたし、それがとても面白い作品でした。

読み終わって調べてみると、ちょうど今年WOWOWでオリジナルドラマ化されていたようでした。何となく、そういう小さな偶然・ちょっとしたタイミングってありますよね。まぁ、だからといってドラマを観るかと聞かれると、多分観ないのですけど…(WOWOWも未加入)

なるほど、本書の略称は「であすす」なのですね。

以下、ざっくりあらすじ&感想と、特に印象的だった著者の言葉の選び方の話、それから作中で紹介されていて読みたくなった本、の3本立て(?)でお送りしま〜す☺

ざっくりあらすじと感想

みんな大好きヴィレッジ・ヴァンガードの店長さんをやっている著者(ご本名みたいですね)が、旦那さんと離婚を見据えた別居生活を開始し、仕事もうまくいかず、どん底な生活を送っていたとき。

「X」というサービス(今もあるのかなぁ🤔)を知ったことをきっかけに、「その人に合った本を勧めたい!」と思い立ち、Xを通じて出会う初対面の人たちにひたすら本を紹介していく武者修行を始めることに。

本作では、武者修行を始めるまでの経緯、出会った人たちとの攻防、そして修行の先に見えたもの…が、ノンフィクションというかエッセイ寄りに描かれています。

わたし自身は出会い系やマッチングアプリの類を利用したことが無いのですが、作中で著者が出会った人たちは、変わった人もかなり多くて「やっぱりマッチングアプリって怖いよな」と思うこともあれば、とても魅力的で素敵な出会いもあり、「普段の人間関係の延長ではない、飛び越えた出会いって面白そう」とも思いました。

人見知りかつモノグサなので、面白そうとは思いつつわたしには腰が重すぎるよな…と思うのですが、作中では著者が自分自身に対して「人見知り」と表現されており(ほんとか…?とめっちゃ疑ってしまった笑)、そんな方でも手を伸ばせば色んな出会いに触れることができて、そこからアメーバ状に出会いやチャレンジが広がっていき、1年間の修行の先に全く新しい道が拓けていた…、というのが眩しかったです。

(Xで出会った方たちは仮称だと思いますがイニシャルとかではなく苗字などで登場するので「ご本人に許可取ったのかな…?とつまらないところが気になりました笑)

ご本名で活動されているようなのでググってみると、いまは日比谷シャンテの中に入っている「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長さんをやっていらっしゃるとのこと!

今度お店に遊びに行ってみようかな。ご本人がいらっしゃったとして、話しかける勇気は無いけど…笑

本の魅力を伝えること

先ほども書きましたが、とにかく印象的だったのは、著者の言葉の使い方でした。紹介された本たちが、もうとにかく全部面白そうで!

自分の語彙の貧困さというか、表現の下手くそさというか……作品の”核”というか、魅力を、端的に表現することが全然出来ていないんだなぁとしみじみしました。

以下、いくつか印象的だった部分を引用させていただきます。お読みいただければ、わたしの言いたいことが何となく伝わると思います。

 数日後、さやかちゃんにおすすめした本はアルテイシアの『もろだしガールズトーク』。
 ページを開くと下ネタ感の強い直接的な単語が太字で書かれていて、あまりの強烈なインパクトに思わずページを閉じてしまうようなエッセイ本だ。人前や電車の中では絶対に開けられないが、性を女子の立場から面白おかしく語るその根底には強いフェミニズムがあり、女子が男子からの支配や社会の偏見から逃れ、自分の性を肯定できるように、男性に依存することなく主体的に自分の力で幸せになれるように、という願いがいつも書かれていた。

ハードカバー版P72より

これらはおそらく、ヴィレヴァンの例のPOP作成などで鍛えられた力なのでしょうね。

 田口さんには水野敬也の『「美女と野獣」の野獣になる方法』をおすすめした。いわゆる恋愛テクニックの指南書で全体にフザケ感の強い本だったが、ふざけて書けば書くほど、避けて通れない、著者の持つ異常なほどの真面目さがにじみ出て、最後に爆発する名著だった。その真面目さが田口さんと似ていると思ったから、この本に出会ってほしかった。

ハードカバー版P111より

避けて通れない著者の異常なほどの真面目さ!こんなことを言われたら、もう読みたくなってしまいますよね。

「私は、SFってほどではないんですが、叙情的……というワードから思いついたのがカズオ・イシグロです」
「名前はきいたことありますが読んだことないです」
「やった!ぜひ『わたしを離さないで』を。全寮制の学校にいる子どもたちの生活が描かれるのですが、どことなく不穏さを感じさせるもので。ミステリーのような『ネタバレ禁止』的な性格を持ちつつ、最後まで読んだときに考えさせられるというか、深く感動が残るような作品です」

ハードカバー版P184より

わたしも「わたしを離さないで」は読んだことがあるのですが、こんな紹介は出来ないな…と特にしみじみした部分でした。

わたしは同作品に、ゆっくり沈んでいく夕陽が投げかける最後の光みたいな、ちょっと切ない明るさを感じたから、もし誰かに紹介するとしたらそういうことを言うんだろうなと想像しました。

「『落日』って感じの本だったよ!!!!」とか?伝わらないなぁ笑

と言うか、わたしの場合はおそらく、それがどんなお話だったか・何がその本の核だと思ったか、ということを覚えていない、咀嚼出来ていない、という根本的な問題があるように思いました。

特に、読んだけどブログに感想を書かなかった本(「わたしを離さないで」とかまさにソレ)の記憶がおぼろげなこと!もともとこのブログは自分自身の備忘録的側面の強いものですが、作品の核をしっかり理解して、自分の中にしまっておけるようにするためにも(そしてそれが、自分の肥やしになればいいなと)、ちゃんとブログを書こう…と思いました😌

読んでみたくなった本

作品の最後に「本書ですすめた本一覧」が載っている親切設計がありがたかったです。

その中で、特にわたしが気になった作品たちはこちら。

それぞれどんな風に紹介されていたか?は、ぜひ本書でお確かめください!

正直なところ、70人ってことは70冊+αの本が取り上げられているのかな?と期待したのですが、そこは取捨選択というか、出会い系での交流は全体の半分くらいのボリュームだったのでした。

残りの半分は、著者のこれまでの経緯だったり、出会った人との友達以上恋人未満の関係性だったり、後半は新しい道に踏み込んでいくまでの過程だったり……が少々湿っぽく書かれていて、そこはちょっとわたしの求めるものとは異なっていました。

だから悪いということでは全然無くて、それも含めて本作の魅力だと言う方も沢山いると思います。ただちょっと、わたしには湿っぽすぎたのですね…笑

ということで、毎度勝手ながら個人的には5点満点中の3点評価とさせていただきましたが、何度も申し上げたように、本を勧めまくる武者修行というキャッチーさと、本の知識の幅広さと熱量、言葉の選び方がとても印象的な作品でした。

興味のある方はぜひお試しくださいね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!