「すべての、白いものたちの」は旅のお供にピッタリ
ノーベル賞を受賞したハン・ガンの、散文めいた、私小説にも似た、小さな作品を読みました。
詩的な文章で、白いものたちに囲まれたとある記憶がじわじわと織り上げられていく、いのちを描いた物語でした。
196ページと短く、かつ難解ではないため、「ノーベル賞作家」の世界を味わいたい方におすすめです。
☝︎めっちゃ軽い感想
読んだ理由
もうね、分かりやすくアレです。
同時期にハン・ガン作品を手に取った他の皆さまと全く同じく、2024年のノーベル文学賞を受賞されたので。
韓国文学はほぼ未読。唯一、「あやうく一生懸命生きるところだった」は読みました。懐かしい。
なのでハン・ガンのことも存じ上げなかったのですが、もともと有名な方だったのですね。
受賞後数ヶ月経ってから、書店で見かけたら思いのほか薄くて、「これなら読めるだろう」と思いチャレンジ。
ネタバレなしあらすじ
おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。朝鮮半島とワルシャワの街をつなぐ65の物語が捧げる、はかなくも偉大な命への祈り。
生後すぐに亡くなった姉をめぐり、ホロコースト後に再建されたワルシャワの街と、朝鮮半島の記憶が交差する。
文庫化にあたり、訳者の斎藤真理子による「『すべての、白いものたちの』への補足」、平野啓一郎による解説「恢復と自己貸与」を収録。
とのことですよ。
読んでみて感想 ※ちょっとネタバレあり!
文章がとにかく詩的なので、影響を受けやすい自分はまんまと「自分の中のポエティックな部分」を刺激されました。
(読了直後に感想を書くと気持ち悪い仕上がりになりそうで、なかなか感想が書けなかった…笑)
数ヶ月経って思い返すと、「ここではない世界」に連れ出してくれる力は確かにあるなと思った。
ワルシャワの白、おくるみの白、かつて失われた白。
仕事に忙殺される毎日とはかけ離れた世界に、ほんの数行読むだけですっ飛んでいける。その詩的な文章と静謐な語り口によって。
※思い出しポエティック……
そうやって世界観を楽しむ作品なのかな?と思って本編を読み終えると、続く解説文によって今まで読んできた物語たちが別の様相を帯びるのも良い体験でしたね。
(単にわたしの読みが浅い可能性もある。雰囲気モノだと思ってたから…)
以降、深刻なネタバレが続きます!未読の方はご注意ください!
5年後の自分が内容を思い出すための覚書(深刻ネタバレ)
上記の通り、以降はネタバレが続きます!未読の方はご注意ください!!
- 著者の姉は生まれてからすぐ亡くなった
- 著者はそれを母親から伝え聞いていた
- とある作品を描き終えて時間があった著者は、知り合いの勧めでワルシャワに暫く滞在することにした
- ワルシャワの歴史、どこまでも白く凍える街並みに、かつて亡くなった姉を重ねた著者は、「姉が生きていてワルシャワで生活したら」という思考実験を行うことにする
- 本書は3章構成となっており、1章は「思考実験を思いつく著者」、2章は「ワルシャワで暮らす姉の目線」で描かれ、3章は「統合された私」として描かれる
- 戦争や病や寒さ、あらゆるものによって失われたいのちを悼みながら、しずかにしずかに生きていくいのちを言祝ぐ詩集のようなもの
ブログタイトルの通り、わたしは京都に向かう電車の中で本書を読んだのですが、コンクリートジャングルから古都に・近い別世界に・向かっていく道中にピッタリというか。
本書を読むことで、心が一足早く”ここではないどこか”へ、すぐさま飛ばすことができました。
(ポエティックな語り口と、ワルシャワというまだ見ぬ憧れの地という題材が良かったのかも)
旅の景気付けに、あるいは夜の隙間に逃げ込みたい時に。
こんな本が側にあったら心強いものです。