「僕は何度も生まれ変わる」は2巻まで一気読みしたらいいと思う
「薔薇のマリア」という作品が大好きすぎて大好きすぎて、ずっと作品を追いかけ続けている十文字青さんという作家の新シリーズ。
(薔薇のマリアは語り出すと止まらないのでこちらのページ参照)
(ただしスマホは未対応なんだすまない)
異世界転生、というジャンルがラノベ界隈で流行っているとは知っていたものの、ラノベから足を洗って早数年…着いていけるかな?と思いつつ読み始めたところ、普通に楽しめました。
本作は異世界転生モノ、そして国同士の争いを描いた戦記モノでもあり、かの有名な「デルフィニア戦記」に通じるものがあるな…と。
戦記モノにありがちな地名や国名、そこの王様の名前など、カタカナ用語が大量に出てくるので一気に読んだ方が頭の中で情報が整理されるであろうこと、そして2巻の終盤に超展開が待ち受けているので、とりあえず2巻まで一気読みすることをお勧めします。
そしたら、まんまと3巻の発売を切望することになるだろう…(預言者風に)
さて、以下あらすじと感想、超展開の内容に触れるネタバレ感想です!
Contents
ざっくりあらすじと感想
著者がブログで作品紹介をしているので、こちらをお読みいただくと参考になるかも!
(ちょっと長文ですが、ラノベ業界の構造、先行きにも触れられていて、なかなかに興味深い内容です)
httpss://www.pixiv.net/fanbox/creator/32889988/post/105768
ある日、僕は死んだ。享年29歳。しがない社畜の儚い末路だった――はずなのに、まさか生まれ変わった……のか?でも、僕はまた死ぬ。運命の悪戯なのか。死んでは生まれ変わり、そのたびに”彼女”が僕を殺す。漆黒の髪。赤い眼。僕を”劣等種”呼ばわりする”人間の帝国”の彼女が。そして、とうとう5回目の人生。成り行きでとるにたらない傭兵暮らしをしていた僕の許に、突然アークラントの”魔王”から使者が来た。
はあ? 僕が魔王の隠し子だって……!?
――これは何度も生まれ変わった挙句、何の因果か魔王の血を受け継いだ”僕”がやがて英雄へと至る物語――
泥臭くも華麗なる大逆転劇が幕を開ける!
異世界転生モノ、と聞くと
「日本ではツイてない人生を送っていたサラリーマンが、ひょんなことから異世界に行き、日本での知識を使って異世界で無双状態になってわーいわーいやったネ!」
みたいなお気楽ストーリーが多く、それらをサラリーマン世代が現実逃避のために読んでいる…という印象(偏見)を持っていたため、正直読んでみたいと思ったことも無かったのですが、本作はもう少しこってり、というかハードな作風なので、現実逃避したい方には向いていないな、と思います。笑
まず、主人公が現在に至るまでに何度も死ぬことになっていて可哀想。
何度も生まれ変わるということは、何度も死んでいるということであって、その痛み、苦しみを何度も何度も味わう…というのは、あんまり羨ましくは無いよなあ…と思ってしまうのです。
(著者は、流行を見せる異世界転生モノへの意趣返しというか、一石を投じるような気持ちで本作を書いたんじゃ無いかと、思ったりします)
あと、主人公がやたらと虚弱体質で、これもまた可哀想。傭兵集団の中で育ちながらも、ちっとも武力は身につかず、何とか頭を使い策を練ることで何とか生きてきた…というタイプ。
(ここで主人公が日本での人生で得た軍略的な知識が活かされているのだけど、
やっぱり異世界転生モノを読むと「何でそんな知識持ってるねーん!」という
疑問が湧いてきてしまう。それがのめり込めない原因なんだよね…)
異世界に転生したものの、かなりハードモードな人生を送る主人公が、あらすじにもある通り「魔王の息子」だったことが判明し、一気に国同士の争いに巻き込まれていき、軍師として身を立てていく…と言うストーリーなのですが、
体が一気に強くなる訳でもなく、自分の考えた作戦によって人の命が動く重みに耐えなければならず、やっぱり羨ましい環境とは、とても言えない。
主人公の素朴で控えめで優しい性格もあり、
何とか頑張ってほしいな…と応援したくなるような作品に仕上がっています。
そうそう、政略結婚により美人(ただし巨人族なので主人公よりもずっと大きい)な王女さまと結婚したり、何気に色んな女性から好意を寄せられていて、そこは結構ラノベ的と言うか、御都合主義的なところもあります。
ただやっぱり、女性に言い寄られてハッピーだったとしても、じゃあ自分が代わりに彼の人生を送りたいかと言われるとそれはノーだったりする、禍福の絶妙なバランスが本作らしさなのではと思います。
報われない自分のための投影先としてではなく、厳しい環境でも諦めずに大切なものを守ろうと奮闘する青年の戦いを応援する、そんな異世界転生ものがあってもいいよね、と言う気持ちになる良作でした。
(とにかく2巻まで読んでみてほしい。超展開なのだ…)
未読の方NG!ネタバレ感想
さて、先ほど散々超展開と言ったのですが、東征軍の侵攻を食い止めるため、国内に点在する多様な民族を束ね、東征軍の拠点を奪い返した連合軍。
(ハーマイン・ロメが気に入っていたので、戦死して残念だった…(*_*))
祝杯を挙げる中、兄妹と国の未来を議論しあい、(ドゴシアンはタイジュの大君に、ロワは魔王に就くことを合意し合う)砂の王の娘・シャリファを第二夫人に…といった珍事も起こる中、深夜、潜伏していた東方元帥リンゼリカ・フォーエヴァランスが凶刃を振るう。
そこで、何と、ドゴシアン、タマミナ、アルノワ、シャリファ、ナバク、ダーリャ、ジョー…ロワの大切な人たちが呆気なく、無残に、殺されてしまう。(怖い怖い!この辺びっくりして目を見開きながら読んだよ)
そして、ロワ自身も、リンゼリカに絞殺されてしまう。
(ただし、ロワは”死ななかったことになる”魔眼の力で、何度も死に、生き返るたびにまた絞殺され…を繰り返すことになる。怖い)
最終章、再び生まれ変わったロワは、何と敵国であった帝国に生まれついてしまい、当代の帝国矯正軍総督であるリンゼローザ・フォーエヴァランスの副官として、陸東(ロワたちの国)に侵攻することになってしまう…
(そういえば、文章の所々に、「後の時代からその当時の記録を読んでみました」みたいな文章で描かれていたのが不思議だったのだけど、そう言うことだったんだな…と得心がいった)
リンゼローザは夏に咲く花のような笑みを浮かべた。彼女はリンゼリカじゃない。僕を絞め殺した東方元帥に似てはいるけれど、似ても似つかない。でも、僕は一九歳を迎えられないような気がしていた。彼女はきっと、また僕を殺す。今回も十八歳で僕は死ぬ。
P347
なぜロワ(今はダークルト・ロメか)は何度も生まれ変わるのか?
リンゼリカ(今はリンゼローザか)は何故同じ顔で生まれ、ロワの前に現れるのか?
死んでしまったタマミナたちは決して甦りはしない。もうすっかり、ロワたちの時代から時は流れてしまったから、そのよすがを得られることも、恐らく無い。
ロワと一緒に喪失を抱えた読者は、それではせめて、と、残された謎が解き明かされることを切望することになるのです。
ああ、3巻が楽しみだな…(深い悲しみと共に)