森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」のジュブナイル感が好き

角川さんが最近始めた「角川文庫・ラノベ読み放題サービス」にて対象作品だったので読んだ一冊。確か2018年にアニメ映画化されましたよね。

映画は未視聴なのですが、ペンギンのアホ面が可愛いなぁと思っていました。笑

ちなみに、本作の主人公の少年は頭いい設定なので勝手にメガネ君だと思っていたのだけど、トレーラー映像見たら全くメガネじゃなくてむしろヤンチャそうだし、あれっと思って小説の表紙を見たらこちらもメガネじゃなかった。
(主人公の友人であるウチダ君はメガネだと思ってたらやっぱりメガネだった。わたしは本作をメガネコンビの物語だと思い込んでいたことが分かった)
決めつけヨクナイネ😷

ざっくりあらすじと感想

あらすじ

ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした──。少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。第31回日本SF大賞受賞作。

主人公のアオヤマ君がたいへん(この”たいへん”というのが彼の口癖で、それがまた可愛らしいのだよなぁ)良いキャラをしていて、ぐんぐん伸びる若草のような、背伸びがそのまま成長に繋がっていくエネルギーが溢れていて、頭を撫でくり倒したくなる。

小学四年生の夏の冒険、年上のお姉さんへの憧れ、街に流れる川の上流を追い求める探検、草原に設置した秘密基地、そして突如現れるペンギンたち…

映像化したくなるのが納得な、キャッチーでポップで、ちょっぴりノスタルジックな風景描写が、森見さんらしくて魅力的でした。

一方で、未視聴ながら恐縮なのだけれど、このアオヤマ君の魅力を映像化するのはとても難しいんじゃないかとも思った。彼の魅力は、それほどたいへん微妙なバランスで保たれている。

 他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。一日一日、ぼくは世界について学んで、昨日の自分よりもえらくなる。たとえばぼくが大人になるまでには、まだ長い時間がかかる。今日計算してみたら、ぼくが二十歳になるまで、三千と八百八十八日かかることがわかった。そうするとぼくは三千と八百八十八日分えらくなるわけだ。その日が来たとき、自分がどれだけえらくなっているか見当もつかない。えらくなりすぎてタイヘンである。みんなびっくりすると思う。結婚してほしいと言ってくる女の人もたくさんいるかもしれない。けれどもぼくはもう相手を決めてしまったので、結婚してあげるわけにはいかないのである。
 もうしわけないと思うけれども、こればかりはしょうがない。

episode1 海辺のカフェより

理屈屋だけどとても素直で、世界を常にまっすぐに見つめ、好奇心旺盛で、大人になりたがりで、可能な限り公平で、正直で、友達に優しくあろうとする。

読み手の頭の中で、色んな形のアオヤマ君が描かれるだろうけど、もしそれが一つの形に、映像に収まってしまったら、きっと“ワザとらしさ”が生じてしまう気がした。

この小説自体が作り物でありながら、映像化されることで一層「作り物めいた」ものになってしまうのではないか、それはアオヤマ君の稀なる魅力を殺すことになりはしないか、それがとても心配だなあと思うのです(超余計なお世話😷笑)。

(機会があれば、アニメも見てみようかな)

さて本編ですが、正直ちょっと訳がわからない。
アオヤマ君の可愛らしさと、展開の荒唐無稽さに続きが気になってる読み続けたものの「これはスッキリ謎が解決する感じではないなぁ…」と思いながら読んで、本当にその通りになったので、それを踏まえて読むか読まないかを決めたらいいと思います。

森見さん独特の雰囲気と、スッキリしないパターンの恩田陸を掛け合わせたキメラ作品だなっていう印象。普段、本の感想を書く際にも「でも本当は、予備知識が何もないまま読むのが一番ワクワクするんだよね…」と思っているわたしですが、こればっかりは、謎が解決しないことを予めお伝えしておきたい。本作の主旨は、テーマは、大事なことは、謎が解決することではないのだから。

それじゃ、この作品は何を描きたかったのか?

わたしは、それを「誰もが心に抱くノスタルジーの中で仮に不思議な出来事が起こったとして、アオヤマ君の目を通すことで、それをあの頃の気持ちのまま味わうこと」ではないかと思いました。(うまいこと言おうとして冗長になるパターン😩笑)

世界をまっすぐな目で見つめ、何もかもが目新しく不思議で、毎日発見があって、一日がやけに長く感じたあの夏の日……。そんな個人個人の思い出の中だったら、ちょっと(かなり?)不思議な現象が起きても、例えば街中に突然ペンギンが大量発生しても、いいじゃないか、あの夏は永遠だ。

そんな気持ちで読むのがいいと思います。

遥かなジュブナイル、瞳の中のレインボー(ところでこの歌詞が胸に刺さる人は同世代なので握手しましょう)