投稿者と穂村さんのセンスが光る「短歌ください 双子でも片方は泣く夜もある篇」

エッセイスト・穂村弘さんの作品を読んでみたいな〜と思ってKindle Unlimitedで探していたら本作が対象だったのでさらっと読んでみました☺

(アラッ、今見たらアンリミテッド対象から外れているようですね、残念。。)

ダ・ヴィンチでの連載を本にまとめたもので、本作は2015年11月号〜2018年4月号に掲載されていたものとのことです。

毎回、お題に沿った一般の方の短歌に、穂村さんが短いコメントをつけていくという形式。後半は自由形式で、お題に捉われず自由に詠むもの。こちらも穂村さんがコメントをつけています。

分かるなぁ、と思わず笑みが溢れるもの。
この世の真理を抉る鋭いもの。
穂村さんのコメントが軽妙で心地よく、なるほど穂村さんの書いたエッセイが読んでみたくなりました。

特に印象に残った短歌を書き記しておきます。短歌の後にコメントが続いてい場合は、穂村さんの解説も含めて印象的だったので、そのまま引用しています。

「プレバト!」の俳句もだけど、眺めていると詠んでみたくなるけど、とても自分には出来ないな…といつも思います。短くてシンプルだからこそ、手の届かぬ深遠さよ。

こういうの初めてだって言ったのに髪まで洗った僕を笑った(近藤きつね・男・26歳)

私を取り上げてくれた産婆さん今なお処女で現役だって(はるの・女・23歳)「数え切れないほどの出産を間近で見てきたからこその選択なのかもしれない」

ほんとうに処女だったんだラッキ ーって言ったあいつの顔を忘れた(古賀たかえ・女・35歳)「あいつ」の言葉の無神経さと軽さ 。深いところが傷つく感覚があります。「顔を忘れた」とは、たぶん無意識の復讐なんだろう。

このまんま死んだらやりきれん立ちこぎの処女地震のあとに(野村やえ・女・27歳)「立ちこぎ 」がいいですね 。これによって 、瓦礫の中をぐんぐん漕いでゆくような感覚が生じています。

テーマ:「童貞」または「処女」 (「このテーマは投稿するしかないと思いました」というテンションに充ちていました。という穂村さんの前説が面白い)

※自由題作品
一斉に老人たちが「今日から塗り絵絶対致しませんから」(ねむる・女・24歳)「塗り絵 」の意外性が臨場感と独特の怖さを生み出しています。

テーマ:転校生

どのトオルかわからないまま切られてる「トオルカットでいい?」と聞かれて(石川明子・女・42歳)「夫が子供の頃に通っていた床屋は、みんなトオルカットにしちゃうそうです」との作者コメントがありました。嫌とは云えない雰囲気なんだ。「トオルカット」ってネ ーミングがいい。妙なリアリテイがありますね。

テーマ:「美容院」または「床屋」

さとうしおすにせはしょうゆ そが残る そはなんだっけ 母に会いたい(リズム・女・46歳)「さしすせそ」を使った応募作はけっこうあったんだけど、この歌は結句で「母に会いたい」とジャンプしたところがいいですね。「母が亡くなり10年以上、でもまだ些細なことで知恵を借りたくなります」という作者のコメントがありました。

テーマ:調味料

他にも沢山あるのだけど、是非本を手に取って欲しいのでここまで。これまた印象的なタイトル「双子でも片方は泣く夜もある篇」というのも、収録されている短歌から取られたものです。

このね、リズムさん46歳の「母に会いたい」という歌に、お恥ずかしながら泣いてしまった。何だろう夜だったからかな。笑
特に、リズムさんのお母様が10年以上前に亡くなっているというご本人のコメントと相まって、母子とはそういうものなんだという、愛情と信頼に共感したからなのかな。わたしの母は幸いまだまだ元気ですが、親孝行しなきゃなと、改めて思った一作でした。
もしかしたら寂しい思いをしているかもしれないリズムさんに、あなたの歌に泣きながら共感した人間がいますよと、そっとお伝えしたい、そんなことも思いました。

いやぁ、短歌って良いですね。俳句も「プレバト!」の影響でだいぶ好きになりましたが、文字数が俳句よりも多い分、分かりやすいし、崩し方にも自由さがあるし。

短歌といえば、こちらの二作品が気になっています。今度読んでみよう。

玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ
若手歌人ふたりによる共著歌集。ある男子高校生ふたりの7月1日からの1週間が短歌によって描かれるというもの。

恋文
俵万智さんと荒木とよひささんの共作で、家族のある脚本家と女流詩人は、庭の桂の木をポスト代わりに手紙のやりとりをはじめたという設定で綴られる仮想の往復書簡なのだとか。

うーん、恋文と同じような、男女の短歌のやり取りで構成されている本が他にもあったはずなのだけど、思い出せない…インスタで見かけたと思うのだけど…😷