お耽美小説「この闇と光」が超展開続きでミステリファンも納得の仕上がりだった
敬愛する皆川博子さんの
「開かせていただき光栄です」
「アルモニカ・ディアボリカ」が面白すぎて
「ああ、最&高だなあ…」などと浸っていた時、
表紙が似ているということで目に入ったのが本作でした。
タイトルもいいですよね、この闇と光。
光と闇じゃないところが特に。
表紙をよく見ると、英語は”Light and this darkness”と書いてあります。
それもまた良い。
「この」という言葉が「闇」に掛かっていたことがわかる!
なるべく予備知識なく読んでいただきたい作品ではありますが、
まず少しだけ内容をご紹介したいと思います。
ネタバレなし!あらすじ紹介
亡国の盲目の王女「レイア姫」と、
彼女の神さまである「おとうさま」、
そして意地悪な継母の「ダフネ」…
光の娘と讃えられた少女は、
熊のぬいぐるみの「プゥ」と、飼い犬の「ダーク」、
そして音楽と物語に囲まれ、森の奥で濃密に密やかに、暮らしている。
うーん、これぞ耽美!と浸っていたところから、
急展開アーンド急展開が続く後半の盛り上がりがすごいのです。
そして、謎が解けたと思ったら、
また深い森の中に囲まれていたような読後感!
ネタバレすると面白くないのでここまでにしておきますが、
ミステリ好きにも、雰囲気小説(謎ジャンル持ち込むな)好きにも
おすすめできる作品です。
服部さん初読みでしたが、解説の皆川博子さんと同じ匂いがして、
他の作品も読んでみようと思いました。
(そう思う読者を見越してか、解説で服部さんの他作品の
紹介もしてくださる皆川先生、最高!)
濃縮された知識と世界観と、独特の美学みたいなもの。
なんというか、偏ってるからこそすごい、みたいな。
ご自分が「美しい」と信じるものをひたすら追い求めた結果の凄み、みたいな。
もしかすると好みは分かれるかもしれませんが、
わたしにはすごく響きました。
- 皆川博子好き
- 耽美と聞くと黙っちゃいられない
- 盲目の王女と聞くとそわそわする
- ミステリも好き
ネタバレ感想〜アレには驚きましたね〜
随所に張りめぐらされた緻密な伏線と、予測不可能な本当の真相。
幻想と現実が混ざり合い、迎えた衝撃の結末とは!?
至上の美を誇るゴシックミステリ!
というのが公式の煽りなわけですが、
読まれた方、”予測”は出来ましたか?
わたしはというと、「おやおや…?」くらいの違和感は持ったものの、
後半パート、特に「囚われの身」から「病院」までの間は
「ええ!?……(読んでる)…ええええー!?」
の繰り返しでした😂笑
語り手が盲目だからこそ、他の全ての感覚が鋭敏で、
物語と音楽に耽溺していく様子が読み手にも
流れ込んでくるようで…歪んでてよかったですよね。
ところで、この魅力的な表紙のイラスト、
やっぱり冒頭で言ったように皆川博子さんの傑作「開かせていただき光栄です」
に雰囲気が似てるな…と思ったので調べてみることに。
佳嶋さんという方が担当されているとのことなので、
公式HPを探してみました。
WORKS – 佳嶋 KASHIMA Illustration art works
やはり、「開かせていただき光栄です」
「アルモニカ・ディアボリカ」もご担当なさっていました。
それだけでなく、イかれた美少年×ゴシックホラーの傑作である「霊応ゲーム」も!
もしや、この方が表紙を担当している作品は
繊細さと狂気とが混在する小説が多いのでは…?
少し脱線しましたが、本編の感想をば。
まずあれですよね、おとうさまヤベーやつだなと。
てっきり罪の意識に苛まれて、
これ以上自分の元にレイアを置いておくことが心苦しくて、
それで外の世界に彼女(=彼)を返したのかと思っていたのに。
だからこそ、おとうさまに会いに行った怜くんは、
「どんな顔で自分と会うだろう」という弾劾と、
その裏返しとしての怖れを抱いて彼の別荘に行ったのに、
まさか澄ました顔で出迎えられるなんて、
怜くんの味わった衝撃を思うとそわそわしました。
そして、おとうさまの家に入り、
自分の記憶と照らし合わせ、
そこがかつて自分が生活していた“別荘”
であると確信を深めていく怜くん。
しかしレイア姫は盲目であったから、決定的な証拠は見つけられない!
姫の騎士であったダークも、
黒いオーストラリアン・シルキー・テリアではなく
ダールという名前の薄茶色の雑種犬だったことも明らかに。
(オーストラリアン・シルキー・テリアの画像を見て心を落ち着ける。ヨークシャテリアみたいなやつね)
見所は、自分が“おとうさま=誘拐犯”である
決定的な証拠を決して掴ませない巧妙さでしたね。
「また、いらっしゃい。この下は中庭になっていてね、崖と木立に囲まれた居心地の良い芝生です。今は炎天下で無理だけど、秋になると実に快適な小世界になります。シートを広げて、ピクニックをしましょう。そのときには、新たな物語を拝読できるといいですね」ー光に包まれた闇の顔は笑ったようだった。 「君が何と言おうと、私は君が気に入りました。君もそうでしょう?レイア」 そこに居るのはアブラクサス…… 闇と光の神だった。(P293)
つまり、おとうさまは徹底的に確信犯。
おとうさまはレイアを解放したのではなくて、
レイア自身の意思でいつかこの家に
たどり着くだろうと確信していたんじゃないだろうか。
いつの日か、自分の元にレイアが舞い戻り、
そしてそのときこそ、二人きりの世界を構築できるのだと。
その身勝手さ、人の人生をいじくり回して
「でも君も幸せだもんね」と言い切る感覚、
ヒイィ、こ れ ぞ サ イ コ パ ス …!
すごいよおとうさま。狂ってる。(褒め言葉)