最新作「夜明けの花園」と理瀬シリーズあれこれ【おすすめ読む順付き】

恩田陸さんの「夜明けの花園」が発売されました!やんややんや〜!

※もっと昔には”三月”シリーズという呼び名もあったはずなのだけど、今は”理瀬”シリーズで統一されていますね。わたしは三月の国を取り巻く世界観こそが大好きだったので、つい”三月”シリーズと呼びたくなるのだけど、物語の方向は水野理瀬に集中しているので、やっぱり”理瀬”シリーズが妥当なのだろうな…。

さて最新刊の感想の前に、理瀬シリーズに思いを馳せていたら気持ちが昂ってきたので、未だ読んだことないよ!という方におすすめ読み順をご紹介してみます。
この記事を読んでいる方は皆さん理瀬シリーズ履修済では?と思いつつ。

皆さんの理瀬シリーズはどこから?(風邪薬のCM的な前振り)

理瀬シリーズガイドマップ

テンション上がってきたので、まず図示してみます!

読む順①麦の海に沈む果実

原点にして頂点とはこのことか?
無二の世界観に心奪われる読者が続出する人気作、通称「麦海」。
”三月の転校生が学園を滅ぼす”と噂がさざめく、湿原に囲まれた全寮制の学園。
そこにやってきた三月の転校生、理瀬が学園にもたらすものとは?
……という学園ミステリです。
ノスタルジックで憂鬱で、無垢なぶん残酷で、恐ろしいから美しい。
ミステリ好き、学園モノ好き、ちょっと怖いもの好き。色んな方におすすめです。

読む順②三月は深き紅の淵を

刊行年としては「麦海」よりもこちら「三月」の方が先なので、「麦海」と「三月」のどちらを先に読むかが、結構な分かれ目だと思います。
もちろんどちらを先に読んでも異なる楽しさがあって良いなと思うのですが、わたしは「麦海先」派です。
むしろ、できれば「三月」という小説があることを気にも留めずに、何も考えずに「麦海」を読んでほしい。読めば理由は分かるから。

読む順③黒と茶の幻想

「黒茶」はスピンオフ(?)的な位置付けと思っているので正直読むタイミングはいつでもいい、なんなら読まなくても大丈夫…と思っているものの、理瀬シリーズを先に進める前に読んでおきましょか?という感じでここに入れました。
Y島のJ杉を目的に旅に出た学生時代の旧友である男女四人。
育児や仕事を全て置いて”美しい謎”そして過去に向き合う旅路へ。
ロードムービーでもあり美しい謎を追いかけるミステリでもあり。
これもこれで最高なのですが、文量がものすっごいのでお時間のある時にどうぞ。

読む順④黄昏の百合の骨

物語は水野理瀬の成長にフォーカスされていきます。
三月の学園を離れ、かつて祖母が住んでいた洋館へ。
この物語の舞台になる洋館がまた””良い””のですよね〜!(ジタバタ)
本作と、続く「薔薇のなかの蛇」がゴシック・ミステリと銘打たれるのも納得です。
好きな人は好き。これに尽きるすぎる。

読む順⑤薔薇のなかの蛇

理瀬シリーズ最新作。23年に文庫が出たところです。読むなら今!
主人公は引き続き水野理瀬で、「百合」の正当なる続編ですって感じ。
こちらもゴシックミステリや、古き良きミステリがお好きな方にはぴったりかと。
(……というか、そもそもゴシックミステリって何?と思ったので後で調べました👇)

読む順⑥夜明けの花園 ⇦NEW!!

さて、いよいよ最新刊に到達しました。
詳細はこの後触れますが、特に「麦海」「百合」「薔薇」の間を埋めるエピソードが6篇収録されているので、「薔薇」まで読み終わってから(せめて「百合」まで!)読むことをおすすめします。
これだけ先に読んでしまうと、ネタバレになってしまうので注意です!

最短&丁寧 おすすめ読む順まとめ

あれこれ書きましたが、おすすめ読み順をまとめると下記になります。

最短:麦の海に沈む果実⇨黄昏の百合の骨⇨薔薇のなかの蛇⇨夜明けの花園
丁寧:麦の海に沈む果実⇨三月は深き紅の淵を⇨黒と茶の幻想⇨黄昏の百合の骨⇨薔薇のなかの蛇⇨夜明けの花園

まず「麦海」を読んでいただいて、世界観におんぎゃ〜〜となった方は「三月」を、もっと情報くれ〜!となった方は「黒茶」を読まれると良いと思います。

ところで、ゴシックミステリとは?

「夜明けの花園」の帯に「ゴシック・ミステリの金字塔」と掲げられていて、なるほど確かにと思う一方で、「そもそもゴシックミステリってどういうもの?」と疑問も湧きました。

ということで、まずChatGPTに聞いてみました笑

Q:ゴシックミステリとはなんですか?
A:ゴシックミステリは、ゴシック文学とミステリ小説の要素を組み合わせたジャンルです。このジャンルの作品は、しばしば暗く、不気味で、時には超自然的な要素を含みながら、犯罪の解決や謎の解明に焦点を当てます。古典的なゴシックミステリは、19世紀から20世紀初頭にかけての作品で見られますが、現代でもこのジャンルの作品が書かれ続けています。代表的な作家としては、エドガー・アラン・ポー、ウィルキー・コリンズ、アーサー・コナン・ドイルなどが挙げられます。
Q:では、ゴシック文学とはなんですか?
A:ゴシック文学は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、ヨーロッパで興った文学のジャンルです。このジャンルの作品は、しばしば古城や荒涼とした風景、不気味な出来事、超自然的な要素、そして暗く陰鬱な雰囲気を特徴としています。ゴシック文学の作品はしばしばロマンティックな要素も含み、愛や恐怖、死や狂気などのテーマを探求します。代表的なゴシック文学の作品には、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」や、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」などがあります。

ちなみにわたしはGPT-3.5を使っています。
(少し前までGTP-4だったのですが、書店開設に伴い節約のために解約しました笑)

また、恩田陸さんご自身のインタビュー記事にも大ヒントがありました。

昔からゴシックロマン風の物語が大好きで、自分もやりたいと思って始めたのが「理瀬」シリーズなんですよね。ゴシックロマンを好きになったのは、少女マンガからの影響。子供の頃読んでいた『花とゆめ』に、「怪奇とロマン ゴシック・シリーズ」という企画があって、“ゴシックロマンというのは大きなお屋敷が出てきて、女の子が怖い目に遭う話です”というような説明が書いてあった(笑)。自分が好きなものはゴシックロマンっていうんだと初めて知って、その強烈な刷り込みがいまでも続いている感じです。

https://book.asahi.com/article/15155575

なるほどなるほど。
大きなお屋敷で女の子が怖い目に遭うって、身も蓋もなくて面白いですね笑

そう思うと、「麦海」も学園自体が大きなお屋敷のようであり、不気味な出来事のオンパレードですから、やはり理瀬シリーズはゴシックミステリと言えるのでしょうね。

Xにも投稿しましたが、さりとて、大きなお屋敷で女の子が怖い目に遭う作品が、全て麦海のようなお話かと言われると全くそんなことは無くて。
いくつか似た世界観の小説に出会えたら、記事化してみようかしらん(恩田陸リスペクト語尾)

「夜明けの花園」各話ネタバレ感想

それでは最後に、最新刊を読んだ感想を少しだけ。
ネタバレ全開ですので、未読の方はくれぐれもご注意くださいね!

水晶の夜、 翡翠の朝

初出は『殺人鬼の放課後 ミステリ・アンソロジーII』(角川スニーカー文庫)で、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)に収録されているものを底本にされているとのこと。

全体に言えることですが、短編だとサクサク進行で読みやすいですよね。
今回も、学園内で起こった「ワライカワセミ」事件を追いつつ、ヨハンのキャラクターとしての魅力も振りまきつつ、最後に犯人解明とその正体が明かされ…!となんとも親切設計。
サクサク進むが故に、ジェイがモブキャラ止まりになってしまうのがちょっと勿体無いような、面白いような…という印象。

麦の海に浮かぶ檻

『謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー』(講談社タイガ)が初出とのこと。

睡蓮

『蜜の眠り』(廣済堂文庫)が初出で、『図書室の海』(新潮文庫)が底本とのこと。

丘をゆく船

書き下ろし!ヤッター!

まさか短編で、麗子と黎二の関係性や、黎二の家族関係・学園に来る前に起こった事件が描かれるとは…!理瀬シリーズで短編集を作ろうと企画してくださった編集の方、本当に、本当に有難うございます。本当に。(しつこい)

そうなんです、何を明かそうわたくし、黎二のぶっきらぼうなところ、繊細さ、影のある感じ、そして根も優しいけりゃ面倒見が良い=結局優しいところが、すごく好きで……!

黎二とは「麦海」以外では会えない・読めないと思っていたのですごく嬉しくて、堪能させていただきました。

黎二以外で言うと、「麦海」での痛ましい姿の前、学園に来た直後の麗子の描写もまた良かったですよね。

麗子は黎二と出会って確かに癒されて、新しい道を歩き始められた。ただ麗子自身に対人関係や社会性の蓄積があまりにも無さすぎて、誤った道を進んでしまった。正しいルートに進めたと思ったのに、結局破滅ルートに分岐してしまった。
その責任は麗子ではなく、麗子を取り巻く全ての大人が取るべきなのに、そこが三月の王国だったから麗子と黎二が死んでしまった。そんなの悲しいでしかない。
そんなことを思いました。

あ、それから”黎二が理瀬に恋愛感情を持っていた”とハッキリ書かれていて、ヒュ〜〜〜!やっぱり〜〜〜!ってなりました。なりましたよね!?(「麦海」でははっきり””そう””と書かれていなかったので……理瀬が来て、黎二は少しでも楽しい学園生活を送れたのかなって……(親戚目線))

月触

「小説現代」2023年1・2月合併号

聖の卒業前を描いた作品。
初めて読んだと思うんだけど、この聖が誰かに狙われる……っていう展開とか、優秀だけど怪しい数学の先生とか、どこかで読んだような気がする……

聖って徹底的に傍観者ですよね。
自分の能力や役割をよく知っていて、それを弁えてもいて、自分はヨハンのように表舞台には立たない・傍観者であるんだって自覚しているんだけど、それをほんの少しだけじれったく思うような。
今後の理瀬シリーズで聖が出るかはどうかな?と思っているので、聖に焦点が当てられたのも「麦海」ファンとして嬉しかったです。

※「薔薇」の中で、理瀬を助けに来る人が聖だったらいいな…と願いながら読んでいた勢

ところで、聖って”出来ない人の気持ちが分からないタイプの天才”っぽいから、ナチュラルにモラハラしそうで怖いですよね。

絵のない絵本

「小説現代」2022年10月号

最後は理瀬の現在地を描いたものでした。この短編集の〆にふさわしいですね。

わたしはやっぱり「麦海」の世界観が大好きすぎるので、今の強くてダークな理瀬は当然好きですが、少し寂しい気持ちもあって。いつの間にか大きくなった遠縁の子どもを見るような……?(常に親戚スタンス)

それはそれとして、かなりハードな状況に置かれているのに冷静沈着(であろうとする)理瀬が凄すぎて、「薔薇」もそうですが、ちょっと浮世離れしているなと感じるところが寂しい要因かも、と思いました。
昔は(理瀬と同年代の頃は)カッコいいと憧れられたけど、今ここにはすっかり大人の自分が居るわけで、それと理瀬と比べたらヨワヨワのヘナチョコで、情けない気持ちもあるのかも。

そんなほんのり複雑な気持ちもありながら、窮地を切り開こうとする理瀬はたくましくて、物語としては面白かったです。恩田さん、すごいノリノリで書かれたんじゃないかな笑

それにしても、小説現代は講談社だからまあ大丈夫として、初出も底本も別の出版社から出されている作品を収録するって、権利関係がちょっと複雑そうですね。

最後までお読みいただきありがとうございました!
恩田陸作品そこそこブログに感想書いていますので、こちらのリンクからぜひ見ていただけると嬉しいです。