怪しい病院×ピエロ男襲来=ノンストップ医療ミステリ!な「仮面病棟」を読んだよ
2020年、打海文三の“応化クロニクル”(少年少女血みどろハードボイルド三部作、面白かったですおすすめです)を読んで以来、小説をなかなか読めていなかったのだけど、「読めないとか言ってないで、まずは読んだらどうか?」と思い、こちらの作品を手に取ってみました。
人から貸してもらったのだけど、全然読んでいなくて、本を開いてみたら文字が大きめだったので、ああこれなら読めそうだな、と。
サラサラ〜っと、日曜日に数時間ほど読んで読了。
個人的な評価は、星三つ!でした。
(星三つは、“読みたい人は読んだらいいと思うレベル”を指します)
主人公は外科医の速水先生30歳くらい。普段は大学病院に勤務しているのだけど、先輩医師から“割りのいいバイト”として紹介された、田所病院の当直に訪れる。入院患者は65人、何もない一夜を過ごすはずだったが、当直を開始した直後、ピエロの仮面を被った謎の男が、病院を襲撃する…
みたいなお話。
なんかね〜穿った見方だとは思うし、別に悪いことでもないんだけど、著者の「映像化させてやるぜ!!!!」という意気込みが物語から迸ってくる感じがして、すごく今時な小説だなぁ…と思った。笑
ピエロ男が病院に乗り込んでくる、病院の院長や看護師も何か隠している、一緒に人質になった女子大生とちょっといい感じになる…読者を惹きつける仕掛けが散りばめられ、ジェットコースターみたいに上り下りを繰り返し、最後にはあっと驚くどんでん返し。
もちろん、読んでいる間は続きが気になってしまうし、実際一日で読み終え他のだけど、うーん。後味も残りにくいというか、楽しかったね、はいオシマイ、という印象。
もっと心に抉りこんでくる、数日頭から離れない、スルメ小説が読みたいんだよ!という人にはあまり向かない作品だと思う。
逆に、ほどよいエンタメ小説をサクッと読みたい!という人にはおすすめかな。著者は現役医師だそうで、病院を舞台にすることによって、臨場感(入院患者のカルテを読み上げるところや、手術に関する描写など)も味わえます。
キャストを予想するのが楽しい ※正解付き
エンタメに振った作品なので、こっちも映画化された場合のキャストを想像しながら読むのが楽しかったかな。ヒロインは誰役かな〜、といった感じで。
著者の思惑通り(引き続き穿っている)、2020年3月に映画化されたらしく、読み終わったらキャストを確認してみるのがおすすめです。
ちなみに、わたしが読みながら考えていたキャストはこんな感じ。
主人公(速水先生):綾野剛 ※最近綾野剛がカッコいいなと思っているだけ
ヒロイン(女子大生):小松菜奈
ピエロ男:セカオワのDJ
院長:石坂秀夫 ※テセウスの船で校長やっていた人
ベテラン看護師:ちょっとふっくらした感じの人
若手看護師:ほっそりしてて神経質っぽい感じの人
正解は、こちら。
主人公(速水先生):坂口健太郎
ヒロイン(女子大生):永野芽郁
ピエロ男:??
院長:高橋政伸 ※若かった
ベテラン看護師:江口のり子 ※ほっそりしてた
若手看護師:内田理央 ※神経質そうじゃなかった
ちなみに、本を貸してくれた人は本作未読だそうで、返そうとしたら「もう読まない」とのこと。
試しに、物語を導入部から見せ場からオチまでぜーーーんぶ話してみて、キャストを予想してもらったのだけど、坂口健太郎を一発で当てて笑った。
正義感強めでマスク男と交渉を重ね、病院の秘密も探りながらも女子大生とちょっといい感じになる外科医といえば坂口健太郎らしい。(どんな印象)
既読さんだけ!読めばスッキリ思い出すネタバレオンパレード
本の貸主に、割とわかり易くストーリーを語ることができたので、せっかくなのでブログにも書き残しておきたいと思います。
未読の人は、絶対見ちゃダメですよ!楽しみがゼロになるからね。
以下、ストーリーを箇条書きにしてみました。
- 導入部は、速水先生が’警察の取り調べを受けているところから。警察の操作と、速水先生の証言が決定的に食い違っている点があるということで、何度も同じ証言をさせられて疲れている。この日何度目かの、病院での1日を語り出す速水先生…という導入部。
- 速水先生が田所病院へ到着。その時に、病院に勤務する若手スタッフとすれ違う。田所病院は、元精神科の病院を改装して開かれた病院で、窓には鉄格子がはめられている。(お膳立てすごいな)
- 当直質に向かう前に、ナースステーションへ挨拶。この日夜勤で常駐する看護師は二人の予定。ベテラン看護師と、比較的若手の看護師。ベテラン看護師に出勤した旨を伝え、当直室で待機を始める速水先生。
- そこへ、ベテラン看護師から早速呼び出しが。患者の急変ではなく、とにかく下に来てくれと言われる。(当直室は二階にある)
- 一階に行くと、ピエロの仮面を被った男が。コンビニ強盗の後、女性を拉致し、その女性の腹を撃ったので治療をしろと速水先生に迫る。
- とりあえず女性を手当てするために、手術室(一階にある)に運ぶ速水先生と看護師。ちなみに若い看護師はビビりまくり。手術室がやたら最新式の設備で戸惑う速水先生。
- 幸い女性の怪我は軽傷だったので、局部麻酔で手術することに。術後にピエロ男と話しているところで、ピエロの背後に、ゴルフクラブを持った病院の院長が忍び寄る。行け!頑張れ院長!
- 背後からピエロを狙おうとしたところ、寸前でピエロに気づかれる院長。速水先生と一緒に捕まってしまう。ピエロは、一晩明けたら病院を出て行く、一階で見張りをすると言い出す。速水先生、院長、ベテラン看護師、若手看護師、撃たれた女性(美人女子大生)(フラグ)の5人は上の階で夜を明かすことに。
- えーと確か(この辺からうろ覚え)(早い)上の階にいる入院患者がうめき出して、みんなで様子を見に行くんだけど、院長と看護師二人が、自分たちの入院患者だから自分で面倒を見る、速水先生は下がっててくれと二人を遠ざける。
- 怪しんだ速水先生は、呻いた患者のカルテを確認する。田所病院は、身寄りのない病人を積極的に受け入れているので、名前が分からない患者もいる。その場合は、新宿11(新宿で11人目に見つかった入院患者)などという名前で記録されることになる。
- とにかく、その呻いた患者は、直近で腸閉塞?か何かの手術をしていて、その手術痕が開いたため動き出したらしい。速水先生は、普通は腸閉塞なんて大手術をするなら、こんな小さな病院じゃなくて大学病院に転送するのが普通だからおかしいな、と訝しがる。
- すると、倒れた入院患者のカルテに、他にも入院患者の名前が書き連ねられ「調べろ」と書いてあるメモが挟まっている。
- 一人で過ごすのが不安だという美人女子大生(愛美というらしい、二人は名前で呼び合う)(なぜだ)は速水先生と行動を共にし、二人はメモに名前のあったカルテを探し出す。
- 名前の書いてあった入院患者は、いずれも田所病院内で開腹手術が行われていること、執刀医は院長で、助手はあの看護師二人だという共通点があった。あ、怪しすぎる。
- 傷口を診察したりして、速水先生と美人女子大生はいい感じになる。
- 院長室が荒らされたと言って、速水先生を疑った院長が詰め寄ってくる。ピエロが現れ、お金を探すために院長室を荒らしたとあっさり自白。すると院長は、「金があれば今すぐ出て行くか」とピエロに持ちかけ、院長室の隠し金庫から、三千万円を出してきてピエロに渡す。あっ、怪しい。
- なぜか返って逆上するピエロ。院長を撃とうとするピエロを美人女子大生が「何でもするから!」と言って何とか止めさせる。ふ、フラグやんけ。
- すんでのところで思いとどまったピエロは再び一階へ戻って行く。院長と女子大生はちょっと休ませた方がいいね、ということでみんなも移動するのだけど、ここで若手看護師が女子大生に何かを囁きかける。「もう一人いる」とか「院長に気をつけて」とか。
- 何だろうな〜と思っている間に、再びピエロ男がやってくる。さっき何でもするって言ったよなぁ?と言いながら、女子大生を階下へ連れて行ってしまう。下衆いぞいいぞもっとやれ(違う)
- 必死に抵抗しようとする速水先生(ピエロ男に殴られて脳震盪を起こす)、対照的に院長とベテラン看護師は、殺されるわけじゃないんだからと静観の構え。
- 速水先生は、一人で女子大生を取り返そうとピエロ男に立ち向かって行く。ところでこの病院では、何故か携帯の電波が届かないように細工がされているのだけど、ピエロはそれを知らないのではと速水先生は踏んでいて、警察の知り合いにメールするぞ!送っちゃうぞ!女の子を解放しろ!と説得する。
- 女子大生を助け出すことに成功した速水先生、抱き合う二人。(ヒィッ)
- 喜んだのもつかの間、何と上階では、若手看護師がナイフで刺されて殺されているのが見つかった…
- ピエロに殺されたと怯える全員。警察に通報しよう!と言い張るも、頑なに院長は反対し続ける。
- 速水先生は、何とか外と連絡を取ろうと、唯一電話回線が繋がっているであろう一階手術室に向かうことを決意する。ちなみに他の電話回線は切られてしまっているのだけど、手術室の回線は別系統だから生きてるんじゃないかって話らしいよ。
- 女子大生も一緒に行くというので、速水先生は一階の裏口から女子大生を逃し、自分は手術室から電話をかけるという作戦を立てる。ピエロを上階におびき寄せ、何とか作戦を決行するも、裏口は封鎖されており、手術室の回線も切られていた…絶体絶命!
- 手術室に隠れられる場所があるかを探していたら、隠れエレベーターがあることを発見した二人。(ええっ)
- 隠れエレベーターは一階と五階を繋げていて、五階には特別室のような入院設備があり、痛々しく管で繋がった少年が眠っていた。
- 速水先生は、この病院でおそらく違法な臓器提供の手術が行われていることを見破る。まあ何にせよ、ここにいたらピエロも来ないし安全だね、朝までいたらいいんじゃないか、ということになり、隠し通路に立てこもる速水先生と女子大生。するとそこに、院長とベテラン医師が現れる!
- 違法な臓器提供(身寄りのない入院患者の臓器を、ドナー提供を待つ芸能界、財界、経済界の人たちに高値で売りつけている)を行なっていると糾弾された院長は、開き直ってあれこれ喚き出す。
- すると速水先生は、なるほど金になるようだから、口止め料も払って欲しいし自分にも甘い汁を吸わせてくれと院長に持ちかけ、二人でへへ…という顔をする。ショックを受ける女子大生。するとそこに、何故かピエロが!
- 若手看護師を何故殺したのかと詰め寄られたピエロは、殺したのは自分じゃないと言い張る。じゃあ誰が?となったところで、何故か田所病院に警察やマスコミが駆けつけてくる。
- 警察からの投降の呼びかけに応じようとしないピエロ男。速水先生を媒介にして警察とやり取りをすることに。
- 速水先生は、これまで見聞きした情報を整理し、一つの仮説にたどり着く。そこで、警察にはピエロから指示されてない食事の支給を要請し、ピエロに対しては、その食事を院長とベテラン看護師に取りに行かせるよう提案をする。当然ブチギレるピエロ。そして逆ギレし返す速水先生。速水先生は警察との交渉に使っていた携帯電話を突き返し、やってられないぞとプンプンする。ピエロは折れて、院長と看護師に食事を取りに行かせることに。
- ピエロの目から逃れた院長は、この隙に…!と、これまで違法手術の顧客となっていた人物リストを処分しようと動き出す。有名人のオンパレードなので、これが世に出たらまずい…!と焦る。そして、何故違法手術に手を出したか、みたいなモノローグをちょいちょい挟み込んでいたところで、院長の前にピエロと、そして速水先生が現れる。なぜ二人が!?
- 速水先生は、ピエロの目的がお金ではなく、違法手術に対する復讐だと判断して、逆ギレして携帯電話を突き返したときに、ピエロに合図を出していたのだとか。お前の目的を叶えてやるから言う通りにしろ、という。
- ピエロは初めから、違法手術関与リストを入手し、世の中に公開することを目的としていたのだと明かす。すると、院長がプッツンする。
- ここにいる全員を殺し、その罪をピエロになすりつけ、自分は生き延びるのだと言い出す院長。完全にイってしまっている。ピエロを手術用メスで刺し、銃を奪う院長。バーサク状態だ。
- 何とか女子大生を逃したい速水先生は、女子大生を階下に逃し(みんなは二階にいるよ)、火災報知器を作動させることで消化ガスを部屋に撒き散らし、その隙に院長から銃を奪おうとする。
- 作戦はうまくいきそうになったが、速水先生は何者かに襲われ昏倒してしまう。次に気が付いた時には、警察や救急が突入した後で、速水先生は救急隊員に助け出されるところだった…。
- こうして、ながーい回想が終わり、舞台は再び取調室へ。これで全部話しましたという速水先生。警察の捜査と速水先生の供述の、決定的に不一致な点は、「女子大生が何処にもいないこと」だった。あと、ついでにピエロが院長から奪った三千万円も無い。
- 自分の記憶違いなのか?何回か気を失ってるから記憶が混同しているのか?いやでも、自分があの女子大生のことを思い違えるはずはない…(惚れてるぞこいつ)と思い悩む速水先生。警察から解放された後、必死に考えを巡らせ続ける。
- あっ、ちなみに速水先生が助けられた現場では、ピエロ男、院長、ベテラン看護師は全員殺されていて、警察の見解では、院長とベテラン看護師を殺したピエロは、その後自殺したのだとされている。そしてピエロの正体は、田所病院に務める理学療法士とのこと。
- 女子大生に会いたい…なぜなんだ…と思い悩む速水先生。タバコを吸っていたところで、ハッとする。警察の捜査結果と自分の記憶に、他にも矛盾している点がある!
- それは入院患者の数。警察は65人の入院患者と言っていたが、若手看護師の遺体が発見された時、速水先生は空きベッドのシーツで遺体を隠していたことを思い出す。女子大生は、もともと入院患者で、ピエロの共犯者だった!?
- そうなんですね、実は女子大生は田所病院の入院患者で、臓器を抜き取られた被害者だったんですね。意識を取り戻し、不当に臓器を奪われたと言う復讐心から、理学療法士をたぶらかし、反抗をそそのかした。若手看護師は、メイクで別人になりすました女子大生の正体に勘づき彼女に耳打ちをした(もう一人いる、というのはブラフ)ので、女子大生が殺害したのだった。
- 真相に気づいた速水先生は愕然としつつも、更に思考を巡らせる。彼女が次にやろうとすること…復讐の継続…そもそも、院長一人で臓器移植なんてやりとげられるのか…?医師の協力者…、あ!自分にこの当直バイトを紹介してくれた先輩医師!?
- 先輩医師に電話をするも繋がらない。不安にかられた速水先生は、大学病院に向かって走り出す。(いやタクシーを使えや)
- 大学病院に着くと、パトカーと救急車で騒然としている。お、遅かった…崩れ落ちる速水先生。女子大生は…女子大生は何処に行ったのか…?もう会えないのか…?うずくまる速水先生の耳に、女子大生の声が響く。顔を上げると、雑踏の向こう側に、女子大生と思われる後ろ姿が!しかし、速水先生は彼女にかける言葉もなく、ただ、後ろ姿を見送るばかりだった…… 〜Fin〜
サクッと書くつもりが、すっかり長文になってしまってすみません。ほとんど全部書き尽くしてしまったので、未読の方は本当に見たらいけませんよ。
この手の(エンタメに振った)作品って、内容を知ってしまうと魅力が半減してしまうと思うのだよね。
「名著の読書術」という本を以前読んだ時に、名著と呼ばれるものは、ストーリーが分かっていても読みたくなる面白さがある、と書いてあって感心したことを思い出す。
確かに、夏目漱石も、太宰治も、ドフトエフスキーも、あらすじを、何ならオチも分かっていながら、やっぱり読んだら面白いと思う。読者は名著たちに「あじわい」を求めているからだと書いてあって、更に感心した。
そうなのだよね、分かっていても面白い作品ってある。何度も読み返したくなる作品もある。映画も、漫画もそうだけど。ゲームにだってそう思えるものもある。当然、小説にも数多くの「あじわい」を求めるものはある。
翻って本作は、内容が分かってしまったら面白さが一切なくなってしまう部類の作品だとも思う。面白いし、売れるのかもしれないけど、読み返される事はないと思う。消費されて、それでおしまい。人によって価値観は違うのかもしれないけど、名著とは言えないな、とわたしは思った。
その意味で、とっても今時だなと。
否定をするつもりはなくて、今後もこういう本を読んでいきたいけど、ロングセラーや名著と言われるもの、「今」だから生み出される作品、どちらも読んでいきたいな、そんなことを思ったのでした。
最後までお読みいただき、有難うございました!