そして少女は世界遺産となるー荻原規子「RDG」を一気読みした(ロケ地巡り付き)
もっともメディア化されている荻原作品ですね。
この度、荻原作品ロケ地巡りとして、玉置神社に行ってきたので、
雰囲気を出すために1巻を読み返してみたら、
むちゃくちゃ面白くて、旅行の間に気がついたら全6巻一気読みしてました。
せっかくなら、その魅力を旅行に絡めながらご紹介してみようかと。
(自らハードルを上げていくスタイル)
初読時の印象
第1巻の単行本発売が2008年、最終巻の6巻の単行本発売が2012年発売。
足掛け4年に渡ったシリーズでした。(1巻発売が、10年前とは…!)
10年前…、当時大学生だった時に初めて読んだわけですが、
表紙の女の子、主人公の鈴原泉水子ちゃんがとにかく臆病で引っ込み思案なので、
共感がしにくく、ちょっと入り込みにくい作品だな、という印象でした。
発売されるたびに、図書館で予約して読み進めていたので、
前後の繋がりがうっすらしてしまったのも、入り込めなかった要因かも。
「面白いんだけど、なんだかな…」というのが、この作品の印象でした。
やっぱり、勾玉三部作(※)のような、
「今、ここ」ではない「いつかの、どこか」を描いた作品の方が、
わたしの好みなのかなあ…と思ったりしました。
※勾玉三部作とは…荻原規子さんのデビュー作にして代表作と言ってもいい
古代日本を舞台にしたファンタジーとボーイミーツガールが融合した、
もうとんでもなく面白い作品。読まないと損していると断言しますよ!!!!
(特に大好きな二作を総力特集しているので、よろしくなくてもどうぞ)
https://sunset-rise.com/sorairo
https://sunset-rise.com/hakutyo
再読のきっかけ〜そうだ、玉置神社に行こう〜
完結から5年がたった2017年、ファン待望の続編(スピンオフ)が発売されました。
そのときの記事はこちら。
https://sunset-rise.com/star5/rdg-ice-and-glass-shoes
このあとがきに、玉置神社がモデルになっていることが書かれていたのでした。
そして、「呼ばれた人しかたどり着けないと言われており、どきどきしましたが、無事に参拝することが出来てほっとしました」的なことが書いてあり(本が手元にないのでうろ覚え)、
「呼ばれた人しかたどり着けないってそれ……、なんてロマン!?」
と、一気に惹かれ、これはもう、絶対行きたいぞ…と胸を焦がしていたのでした。
しかしこの玉置神社、むちゃくちゃ遠いんですね。東京から。
いつかは行きたいけど、ね…そんな場所でした。
ところが今年の夏休み、一緒に遊んでくれる人の都合もつかず、
これはもう一人でどこかに行くか、家で寝てるかの二択やな…と思った時、
行っちゃう!?玉置神社
と、思いついたのでした。
そうしたらもう、居ても立っても居られない。
行きたいから行く。それでいいじゃない。
ゴールデンペーパードライバーゆえに車無しで挑んだ結果、あまりのアクセスの悪さに頭を抱えながらも、
なんとかお参りすることができたのでした。
前置きがとんでもなく長くなって恐縮なのですが、
いよいよ明日は待ちに待った玉置神社…!と、
十津川温泉という玉置神社のお足元の村で宿泊した夜、
(泉水子ちゃんは外津川高校に進学したがってたけど、
それってやっぱり地名は十津川から来てるんだよね!?とニヤニヤした)
「あっ???これRDGを読んで予習した方が絶対楽しいやつ?!」と
大事なことをこのタイミングで思い出し、
慌ててKindleで全巻購入し、1巻から再読を始めたのでした。
まあ、結局全然読み返さないうちに、玉置神社の参拝は終えた訳ですが…
朝8時半くらいに十津川温泉のバス停を出発する「世界遺産予約バス」に揺られ、
行ってまいりました玉置山の山頂付近にある、玉置神社へ。
十津川温泉から「土日祝日のみ」「要予約」のバスで玉置山へ。
駐車場から20分ほど参道を歩きます。2ルートあるけど、どっちも階段あるよ。
霧の玉置神社。社務所で売っていたパンフレット?に「 Tamaki Shrine in the Mist」的なことが書いてあって、ああそれほど霧深いところなんだなとしみじみした。静かに佇む神社でした。
参道と熊野古道・大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)の重なるところ。
えっこの奥(写真右上)が古道ってことですか?ここ歩くの?無理すぎない?
修験道が、一度死んでまた蘇る覚悟で臨むものだということがよく分かります。
ちなみに山頂にはね…
RDGでとても大事な場面が続々描かれる山頂にはね…
諸般の事情があって行けなかったんです。
「呼ばれた者しか行けない」なんて言われるお山だから、
「ヒエッもしかして呼ばれなかった…?」とちょっとしょんぼりしましたが、
これはあれだ、また来いよって言われたと捉えることにして
次回の楽しみに取っておこうと思います。
その後も旅は続いた訳ですが、なんていうかRDGがあまりにも面白いもんだから、
山道のバス移動中もなんのその、旅の間ずっとRDGを読み返すことに。
全巻読み終えたのは東京に帰ってちょっとしてからでしたが、
仕事の行き帰りの電車の中でRDGを読むのは、なんて贅沢なんだろう…
と、ひたすら幸せな数日間を過ごしました。
なにが幸せだったかっていうと、それはたぶん、
旅先の匂いを、そのまま日常でも味わえたこと。
荻原さんのゆかしき文章が、心をどこか遠くに連れて行ってくれたこと。
だったように思いました。
「氷の靴 ガラスの靴」の感想にも書きましたが、
荻原作品を読んだ時に感じる純粋な喜びは、わたしにとって特別なもので、
どんなに疲れてても、心が荒んでいても、
読むと「好きです!!!!!!!」って、たちまち元気にしてくれる。
まるで読むこと自体が、文章そのものが「祓い」なんじゃないかって。
淀んだものを、拭い去ってくれるような癒しなんだなって。
読むたびに、そんな気持ちになれる。
そう思える作品があること自体が、とても幸せなことだと思います。
なにが言いたいって、荻原作品はほんとすごいんだぞっていうことと、
毎回そんな瑞々しい喜びをたっぷり味合わせてくれるハイクオリティな作品を
生み出してくれる荻原師匠(感極まっている)、本当に有難うございます、
ってことですね。
荻原作品はいいぞ。
…なんかもう、最終的には語彙がなくなっちゃうんだよね。良すぎて。
みんな読んでとしか言えなくなってしまう。
でも、それだけだと伝わらないので、もう少し知恵を絞って続けます。
RDGはここがよかった
ここまで具体的な感想を書いていないのにこんなに長文になってしまい、なんだか申し訳ないですねえ。
これは各巻の感想を書いていたらとんでもないことになってしまうので
それはまあ別の機会にするとして、今回は総まとめ的に、
わたしが思うRDGの魅力をご紹介しようと思います。
<ちょっと長いあらすじ紹介>
世界遺産に指定された熊野古道−その一角、玉倉山の山頂に位置する
玉倉神社で育った主人公・鈴原泉水子は、
腰まである長い三つ編みが特徴的な、引っ込み思案の女の子。
両親はそれぞれ公安警察(母)とシリコンバレーのIT企業(父)に
勤めており、一緒には暮らしていない。
ある日、神社にやってきたのは、泉水子の両親の友人である
相楽雪政(とても顔が良い)とその息子の深行であった。
急に山奥に自分を連れてきて、泉水子と引き合わせようとする雪政に反発する深行。
「その、見合いさせたような言い方はやめろよ。鳥肌が立つんだけど」
「見合い?とんでもない。そんなばかげた考えは捨てていいよ」
相楽はあっさり口にした。
「身分がちがいすぎる。深行がなれるとしたら、せいぜい下僕とわきまえるんだな」(第1巻第2章より)
−下僕ぅ!?
とんでもない発言に引きまくる深行と泉水子。
どうやら泉水子には、周囲が彼女に隠している秘密があるようなのだが…。
という感じで始まる、学園ファンタジーです。全6巻。
ほらもう、楽しそうでしょ。
個人的には、1巻のサブタイトル「はじめてのお使い」がとても好きで。
読み終わった時に、「そっちのお使いね!」ってなるところが。
<何がそんなに面白いのかな>
ということを考えてみたのですが、わたしなりの結論は、
多重の層を抱く物語の厚み
なんじゃないかな、と。厚みがあるんだな、厚みが。
つまり、いろんな風に、読んだ人がそれぞれに、物語を楽しむことができるというか。
ヒロイン・泉水子ちゃんの成長物語でもあり、
泉水子ちゃんと深行の小さな恋物語でもあり、
寮生活!合宿!学園祭!の学園モノでもあり、
修験道や陰陽道、忍者、神霊…日本に古くからある“信仰”を描くものでもあり…
なんだかとんでもないスケールのお話(最終的に人類滅亡に行き着く)なのに、
その運命を背負う少女は、パソコンや携帯が使えるようになりたいとか、
友達の家に遊びに行ってみたいとか、クリスマスパーティをしてみたいとか、
わたしたちにとって当たり前と思える些細なことを、
抱きしめるように大切にするまっさらな女の子で、そのギャップも良い。
それと、これは再読して初めて気がついた視点だけど、
本作は少年少女たちが、自分たちの未来や生き方を模索し必死に歩んで行く姿を
謎のビックスケールでお届けする物語なんだけど、
それを支える大人たちがかっこいい、って話でもあるんだよね。
いつだって、泉水子ちゃんの成長を願い、
彼女の意思を尊重する大人がいる。
みんなが、彼女が健やかに過ごせる環境を守ろうとしている。
陰に日向に彼女を支える大人たちの物語も読んでみたいとも思いました。
紫子さん(泉水子の母親)と雪政(深行の父親)の短編とか
めちゃくちゃ読んでみたいよね。ドロドロお仕事小説みたいなやつ。
魅力的なのは、もちろん大人たちだけじゃない。
再読してみると、当初共感できないと思っていた泉水子ちゃんには、
感情移入するというよりも、自分も友人の一人になったみたいに、
自然に応援したくなる、成長を見守りたくなる危うさとかわいさ、そして強さがあった。
他人に弱さを見せようとせず捉えどころの無い印象だった深行は、
自分のキャパシティを遥かに超えた出来事が起こっても必死で食らいつき、
自分を恃みに壁を乗り越えようとする賢さとひたむきさがあった。
この新たな発見、
自分が年を取ったからなのか、本を読むちからが増したからなのかは分かりませんが、
再読した結果、すっごい面白いなこれ!?となりました。
全6巻がとても短く思えるほど、あっという間にのめり込んでしまいました。
まだまだ魅力を語りますが、
なんてったって文章が良いからね。読みやすくて、さらさらと流れるようで。
さらっと書かれたセリフや地の文に、ぐわっと心を掴まれたりします。
少しも油断をしてはならない。
「たいていの人は、それなら双子と大差ないと考えるけれど、ぜんぜんちがうのよ。私たちはもともと三人で、三人の中の二人なの。この先、私と真夏がいくつになろうと、どこにいようと、何をしようと」(2巻第1章より)
例えばこのセリフ。
泉水子ちゃんのルームメイトである宗田真響(そうだまゆら)のものです。
彼女は真夏・真澄という弟のいる三つ子の長女で、真澄は6歳の時に命を落としています。
(この三つ子も、主役二人と肩を並べる人気で、わたしも大好きです。
尊いってこういう気持ちなの…?ってなります)
このセリフだけで、彼女が二人の弟たちに、いかに心を寄せているかがよく分かる。
それに、「いくつになろうと、どこにいようと、何をしようと」…
このシンプルな言葉の連なりに、音の美しさを感じ取れる。
声に出して読みたい日本語、というか。
荻原作品から受けた影響の一つに、「言葉の美しさに気づけた」、
これ、あると思います(真顔)
<まとまらないまとめ>
全く魅力が伝えきれたか自信がありませんが、
とにかくRDGおすすめだよってことです。
- 寺社仏閣好き
- 寮生活に憧れる
- 途轍もなく大きなものと対峙せざるを得ない少女のお話、と聞くとそそる
- 三つ子と聞くとロマンを感じる
- 美しい日本語に飢えている
全6巻なのが惜しい…、ここから更に大きな物語が始まるような、そのプロローグみたいな物語。
アラサーが読んでもとっても面白い、現代の学園ファンタジーです。(雑)
ぜひどうぞ。
各巻の感想も書きたいなあ🤔